樹下だより

連休の事々。

2023年10月9日(月曜日)

晴れたり曇ったりの昨日と小雨の本日月曜日は連休だった。

昨日はひごろお世話になっているお二人と柏崎市は「石地シーサイドカントリークラブ」でゴルフをした。

初めての同コースは緑濃く起伏に富み難しい。誘って下さったA氏は同クラブのかっての選手。新潟県の選手権で何度もクラブチームを優勝に導かれている。

氏とは二回目だが、驚くほど飛ぶ。少し曲げても後のリカバリーが良く、同伴のB氏と終始目を丸くした。
各ホールの急所を説明しながら後半のアウトなどは38で回られた。同じゴルフでも私達とは次元が異なり、こちらは観客目線で楽しむというような感じだった。

変化に富み楽しかったコース。
54-50の成績でした。

本日月曜はスポーツの日の祝日。小林古径記念美術館で7月15日から行われていた「生誕110年 齋藤三郎展」が本日で終わる。
とてもお世話になっている小島正芳・日本良寛会会長さんがお見えになるので同展に行った。
ちなみに樹下美術館からも出展したこともあり三度目の訪館となった。

館長はじめスタッフ一同の努力によって充実した展覧会となり、本日も賑わっていた。発刊された図録も充実し、愛すべき一冊だった。
二代陶齋・齋藤尚明氏ご夫妻、宮崎俊英館長さん、コレクターの長瀬幸夫さんのお顔も見え、ひとしきり齋藤三郎を懐かしみ最終日を過ごした

尚明氏と小島先生が會津八一が揮毫した書き入れ陶器の皿を観ている。

一渡りした後美術館を辞して髙田駅まで小島先生をお送りした。道中先生の若き日、お勤めされた安塚の学校や、お住まいされた浦川原の話を興味深くお聴きした。

ところで樹下美術館は酷暑の真夏に比べ秋になり入館者さんが増えた。日中の外出を控えてと勧められるほど危険な暑さが続いたのだから仕方が無い。こうなると今後“芸術の秋”はますます鮮明になるかもしれない。

本日裏手の小さな水路が愛らしいミゾソバで被われていた。


みぞそばの陰にちろちろ水の音

 

 

行く秋を惜しんで花に取りつく蝶たち。何とは無しにその蝶と花を惜しんでいる自分。なぜだか「春秋」とは良く言ったものだとふと思った。

篠崎正喜さんの鉛筆画。

2023年10月6日(金曜日)

月並みだが歳月が早い。ついこの間まで暑い暑いが口癖だったのに、突然寒いというようになった。暦は9月を飛ばして一気に10月、それも本日6日を迎えている。

今月17日までの「篠崎正喜展」があと10日で終わる。本日は入場して直ぐ左の一角にある鉛筆画5点の紹介です。
広く澄んだ時間が柔らかに切り取られています、

ここに5点まとめています。

「六月の花嫁」
遠くの人影は新婚旅行の出発?

「午睡」
樹下美術館カフェの大作の習作。

「遠望」

「車窓」

上掲二作とも少年が遠くを見ています。彼らには翼がありますが決して不自然には見えません。遠くを見ていた青春時代の気分が蘇ります。

「異邦人」
大人になっても翼が。

かすかな耳鳴りだけが聞こえているような一人の時間。その時間にも何人かの人がひそかに一緒にいるのではないでしょうか。いずれの作品にも自然な旅情が感じられます。

10月12日(木曜日)15時から篠崎正喜さんの「生成AIと美術」のギャラリートークを致します。入場は無料、まだ少し余裕があります。美術の最も新しく切実なテーマではないでしょうか。お暇をみておいで下されば有り難く思います。申し込みはお電話でどうぞ。

樹下美術館 電話 025-530-4155

涼しくなりました 篠崎正喜展 絵本「青いナムジル」の原画から。

2023年9月21日(木曜日)

10月17日(火)まで開催の篠崎正喜展。およそ二ヶ月の展示は後半に入りました。ご好評を頂いている展示ですが過日妻から遠来のご夫婦のお客様のことを聞きました。

お二人は、それはそれは熱心に時間を掛け作品を観て行かれたそうです。長野県の東御市(とうみし)から二回目のの来館とお聞きしたということ。一回目は当地を訪ねたおよそ二週間前、たまたまサイトで樹下美術館を知り篠崎作品をご覧になったそうです。その際展示をとても気に入り早速二度目の訪問だったそうです。

さて本日は展示中の篠崎正喜作品から書物「青いナムジル」の挿絵「金持ちの娘」です。白馬と草原と青年ナムジルの物語で、かっての国語教科書「スーホーの白い馬」で知られるモンゴルの民俗楽器、馬頭琴生成の伝承をモディファイし童話作家寮三千子さんが物語として書き篠崎正喜氏が挿絵されています。

本日取り上げましたのは去る日の来館者さんが、作品の細部の描き込みに驚かれたのがきっかけです。

挿絵原画「金持ちの娘」。

 

娘の衣装の拡大。

 

女性の帽子部分。

いずれも中世絵画を思わせる鮮やかさですが、画家によるモンゴル衣装の研究成果ではないでしょうか。

話変わりまして以下は館内のお声ノートに残されている皆さまのメモの一部を掲載させて頂きました。

・とってもきれいだった。特に「この森に天使はバスを降りた」がとてもきれいだった。

・色の重なりがとてもきれいでした。素敵な世界を見ることが出来てとても楽しかったです。「海辺の街」が特に好きです。

・きれいで絵にひきこまれそうになりました。

・素晴らしい。好きな絵です。どんどん話がふくらんでいつまでも観ていられます。丸い。やさしい。人の目がいい(嫉妬している女の目でも)。動物の目や手足のフォルムに愛ががる。ユ-モアがある。どこかにいつもひとりを愛する(?)人がいる。きっとネコ好きでしょう。

・どうやってこの感動を買えるのだろう。

・絵のどうぶつがかわいいです。みていてたのしいです。またきたいです。

・昨年より絵本の読み語りのボランティアを始めましたので篠崎先生の作品に出逢えて本当に心より感謝申し上げます。

・本当に何度も足を運びたい美術館です。展示作品も驚くほどクオリティの高い作家さんでした。とても素敵です。有り難うございました。

 

本日は雨。ようやく涼しくなり“芸術の秋”の候になってきました。樹下美術館開催中の倉石隆の素晴らしいデッサンなどの「お嬢さん展」あざやかなファンタジー「篠崎正喜展」をどうかご覧下さい。

10月12日(木曜日)15時から篠崎正喜さんの「生成AIと美術」のギャラリートークを致します。35席の予定で入場は無料です。美術の最も新しく切実なテーマではないでしょうか。お暇をみておいで下されば有り難く思います。

今年前半(3~7月)の館内「お声」ノートです。

2023年9月16日(土曜日)

コロナになって以来3年間、館内の「お声」ノートを仕舞っていましたが、今春からまたお出しして、自由に記入してもらうようにしました。待っていたように皆さまに感想などを記して頂き嬉しい限りです。

129筆のお声コメントはまとめて樹下美術館のホームページ「お声」に掲載しましたのでどうかご覧下さい。ここでは以下に一部を掲載させて頂きました。
複数のノートからの抜粋ですから、時系列ではありませんが、宜しくお願い致します。

●桜の満開の季節に伺えて幸せです。踵の骨折がやっと…。歩ける喜び、大好きな昼の一時ありがとうございます。命の洗濯、来館の度心がなごみます。

●すばらしい洋食器コレクションでした。心が穏やかになりそうです。

●初めて訪問させていただきました。庭がとても美しく、久々に癒されました。窓からの風暖かく美しいです。カップも素敵、最近は心がすさんでとても悲しい思い。明日から又頑張れそうです。お花見こちらで出来て良かったです。お庭の妖精、館長さん一生懸命魔法をかけます。素敵な時間をありがとう。お庭、音楽とても素敵。

●ブログをいつも見ています。大好きな場所です。満開のサクラ良かったです。今日も午後からの仕事がんばれそうです。

●東京から来ました。とってもとっても癒されました。目線に鳥がトコトコ歩いているのが見れて、おだやかな気持ちになりました。また来させて下さい。ケーキとコーヒーも大大大満足です。こんな場所が近くにあったらな。

●埼玉からの友人を連れ来訪。どうしても連れてきたい場所だから…。3年ぶりに話がつきません。作品展楽しみにしています。

●七夕、館長の写真、素晴らしかったです。絵画も楽しみです。

●三度目の訪問です。毎回気持ちが豊かになります。

●大切な人と、共に素敵なひとときを過ごすことができました。

●4回目です。今日も大好きなケーキセット、念願の丸ごと桃のタルトをいただきました。すごく美味しかったです。スタッフさんともお話ができ、緑いっぱいのお庭に癒され、とても幸せな昼下がりです。いつもありがとうございます。毎日来たいくらいに大好きなところです。

●特急はくたかのファンです。在りし日の681系の姿になつかしい当時の思い出がよみがえってきました。またいつか、くびき野を疾走してほしいと願うばかりです。いつもすてきな時間をありがとうございます。

●今日、樹下美術館へ早めて行った。展示の最終日なのだ。前回1度拝見した美しい高貴な古いティーカップコーヒーカップの展示には圧倒される。こんなにあったのだと思う。ですから本日は人の少ない時間帯に来て、展示室のテーブルでおいしいホットドッグとダージリンティーを頂く目的であった。たった一人の貸切状態(実際に他のかた数人)での、ゆったりでした。豪華な昼食を見事な展示の食器を眺めながら一時を過ごした。他所の空間では味わえない、至福の一時でありました。

●初めて娘と来る事ができました。ゆったりとした景色を見ながら、普段なかなか話せない話ができました。今度はお茶の時間に訪れたいです。

●初めて来ました。展示写真の風景、特に夕焼けは美しいと感じました。美術館の雰囲気もとてもよく、落ち着き、ほっとできる空間と思いました。

●今日は抹茶をいただきます。すてきな器でとてもうれしいです。写真もゆっくり見て行きます。いつ来てもいやされがんばろうと思わせてくれる場所です。ありがとうございます。

●ステキな時間をすごせました。ケーキもコーヒーも美味しく、館長の上越の写真が心に残りました。ありがとうございます。

●七夕、館長の写真、素晴らしかったです。絵画も楽しみです。

●素晴らしい写真と美味しいケーキとコーヒーをありがとうございました。いやされましたし、明日からの仕事への活力となりました。また、お伺いいたします。

●we enjoyed your beautiful watercolors!

●my favorite painting way kobushi, it we very beautiful

●the painting were all very pretty!

●先生の作品すばらしい。次回も楽しみです。

●青田風米山さんのふもとまで 

以上様々なシチュエーションで展示やカフェを楽しんで頂き有り難うございます。心が和む、豊かになる、イヤされる、ぼーっと出来た、元気が出たなどと書かれているのを見ますと私の心も癒やされ元気がでます。

以下は丸テーブルのスケッチブックに描いて頂いた一部を掲載しました。

 

 

 

 

当館を訪ねると何かを描きたくなるようですね。見るのがとても楽しみです、また描いて下さい。

あらためて齋藤三郎さんの署名。

2023年9月13日(水曜日)

去る9月10日、前日に小林古径記念日館で開催中の「齋藤三郎展」のイベントの一つギャラリートークで話してきたことに触れた。

書いたは良いが見直してみると文の流れがまことに悪く、少し間(ま)を埋めさせてもらいました。どうかお許しください。

さて本日は齋藤三郎(以下三郎)の署名について前回のフォローです。署名という視覚的で一定の考察が必要な話題ですので少々写真を増やし記事を補完させてもらいました。

署名についてのトーク当日の要旨は、
1署名の変遷。2樹下美術館収蔵で制作年代の同定が難しかった二つの作品の署名について、でした。

まず1からです。
父の後を継いでコレクションを始める過程で最も関心があったのは、手許に無かった戦前作品でした。そもそもそのようなものが後になって手に入るものかと半分諦めていました。しかし何気なく古美術店や個人から求めたものが、後で戦前の作だと分かるようなことが何度か起こりました。
戦前の品はおしなべて地味な染め付けでしたので、求めてからじっくり見るのを後回しにしがちとなり、三郎といえば先ず色絵、もっぱらそんな考えでいたためです。

実際に戦前作品をしっかり確認出来たのは、2007年の開館直前、プロのカメラマンによる全作品の撮影作業がきっかけでした。収蔵品の全てを箱書きとともに観ていくなかで、昭和12~15年に相当する作品が三器あることが分かったのです。自分の迂闊さを反省し、若き日の作品との出会いを喜び、その品の良さと慎ましやかさにあらためて驚いた次第です。

以下はその中の一つ、当館で最も古い作品「染付菓子器」のとも箱と蓋の裏書きです。

図1:慎ましい杉箱、横一文字の紐(左)。右は「昭和拾弐年 秋 齋三郎 造」の裏書きと印。富本憲吉から独立し京都で作陶した年にあたり、「齋三郎」と名乗っています。

図2:文様はデザイン化された竹林で、鉄釉で縁を取る祥瑞(しょんずい)風の仕上げ(左)と、右署名「齋」。発色良い呉須の青と淡々とした署名の趣きが目をひきます。

この後の数年間、署名は以下のように大きく変わりました。

図3:戦前(昭和12年~15年)における染附作品の署名。少々奇抜で一種記号を思わせます。何故このように変わったのでしょう、とても驚きまた不思議でした。現在古径記念美術館に展示されている長瀬幸夫さん所蔵の「染附楼閣山水図菓子器」は同時代のものですが署名はさらに記号風でした。

時代は下り、次は昭和23年髙田に登り窯を築いた時の初窯作品です。

図4:初窯の署名二つ。「齋」は二つの作品でかなりニュアンスが異なっています。窯焚きでは半年一年掛けて制作したものを一気に焼成します。並べてみると同じ初窯でも印象が異なることが分かります。個人的には右のものが左よりも早いのではないかと思われました。

図5:初窯後によくみられる昭和20年代中~後半の署名例。流れるように素早く記されています。

図6:昭和30年前後(左)、40年代(中)、50年代(右)にみられる署名の例、

初窯以後、署名は太くなったり、「なべぶた」の下の省略が進んだり、脚(あし)に当たる「示偏(しめすへん)」が分かりやすくなるなど時代とともに一種単純化の傾向が見て取れます。

次ぎに要旨2です。前回触れた以下二作品の署名はどんな時代に相当するのでしょう。

図7:制作年代が不明だった皿(左)と鉢(右)の署名。

楷書風の書体、陰刻 丸囲みの三つの特徴が共通しています。これらには上掲してきた戦前(昭和12~15年)、昭和23年初窯およびその後の署名のいずれにも類似しない印象がありました。

何時のものなのか図録制作も進まず困っていたある日、髙田のお茶人から白磁の香合を拝領しました。底を見ると呉須で「初窯」の揮毫と楷書の陰刻「齋」があるではありませんか。

図8:葉文月瓷香合の署名。右はそのトレース(右)。

初窯にこんな署名もあったのかと驚くと同時に、図7は初窯にごく近い早期のものではという設定が可能になりました(実は逆に一時は晩年のものかもしれないと考えたことがありました)。初窯にごく近い時期となれば初窯以後とともに、その直前もあり得るのかという考えも払拭できません。これは大変難しい問題でした。

このことに関してかって三郎は本格的な登り窯以前に穴窯(あながま)を築いて焼いたようだという話を聞いたことがありました。あるいうは登り窯であっても正式な初窯前に「試し焼き」のような試行は無かったのでしょうか。色々想像をかき立てられました。
いずれにしても図8が出現したため図7のおよその目安が可能になりましたが、いまだに十分な納得に到らない課題です。

一方同じ初窯でも、三郎は昭和50年に新たな窯を築き二回目の初窯を焚きました。しかし本香合を入手された元々の方は昭和40年までに当地を去られているため、一回目の初窯であることに違いはないようです。

ちなみに昭和50年の初窯の署名を以下に掲げました。


さて図7、8の署名に関してもう少し話を進めさせてください。
2009年秋、長岡市の新潟県立近代美術館で「-版画と陶芸-あふれる詩心展」がありました。楽しい展覧会でしたが、そこで三郎の「呉須搔落牡丹文瓶(ごすかきおとしぼたんもんびん)」を観ました。当作品は齋藤筍堂編著「越後の陶齋 泥底珠光」の書物に昭和18年作として掲載されています。
美術館で観た作品は想像より幾分小さく感じましたが、美しいブルーの地に明瞭な線で牡丹が掻き落とされ、強い求心力を放っていました。

昭和18年と言えば三郎の藤沢市鵠沼(くげぬま)時代(昭和16年~18年)最後の年に当たります。樹下美術館の戦前作品はサントリーの創業者が宝塚市に所有した壽山窯時代を入れても昭和15年までです。鵠沼の昭和18年の署名は一体どんなものだったのか、見てみたい衝動がつのりました。

一両年経って許可を得て近代美術館収蔵庫の「呉須搔落牡丹文瓶」を拝見し撮影させてもらう機会が訪れました。
そこで見た「齋」は陰刻の楷書体、図7および図8とほぼ同じではありませんか。
昭和15年までの図3やその類似ではなく、とても驚きました。また手書きと思われる六角形が文字を囲んでいました。

新潟県立近代美術館収蔵「呉須搔落牡丹文瓶」の署名(左)とそのトレース(右)。

奇しくも同作品はこのたびの「生誕110年 齋藤三郎展」で現在古径記念美術館に展示されています。

作品を造った昭和18年に三郎は招集され中国へと出兵し足かけ4年大陸を負傷しながら転戦しました。昭和21年髙田へ帰国すると23年、早々に寺町で築窯です。陶芸への熱い思いを胸に焚いた初窯。記した署名は5年前、鵠沼で記した署名をほぼそのまま再現したものが含まれていたことになります。

これには戦場から生きて帰り再び作陶できる喜びと、5年間のブランクを自らの手で埋める感慨が窺えないでしょうか。よくもまあ、手がちゃんと覚えていたものだ、とこちらの胸が熱くなります。

さて長くなりました。
ジャンプを交えながら齋藤三郎の戦前の初期作品から戦後髙田の初窯およびその後の署名の移り変わりを想像をまじえ眺めてみました。
しかし述べたものはあくまで私個人の主観、学問でもなければ客観でもありません。また時代ごとの変化やジャンプには何か訳があったのかも知りたいところです。今後作品とともに署名を眺め、あれこれ想像して楽みたいと思います。

最後にこんな風に人前で話すことはとても珍しいので、当日古径記念美術館スタッフに撮って頂いた写真をもう一葉記念に載せました。ご参加の皆さ本当に有り難うございました。

昨日小生のギャラリートーク。

2023年9月10日(日曜日)

上越市の小林古径記念美術館で7月15日~10月9日の期間で好評開催中の「生誕110年 齋藤三郎展」。昨日午後恥ずかしながら「齋藤三郎の文様と署名」の題で話をさせてもらった。

用意した資料の文様集は収蔵作品の草木や果実の写真34種92枚の小さな写真および大雑把な時代ごとに見られる器の署名20個を載せたもの計3枚。それに戦前の若き日の奇抜ともとれる署名と戦後髙田時代の見慣れた署名の隔たりと繋がりを示す資料を一枚加えた。
文様(模様)の話題は三郎のモチーフへの関心と優れた観察とデザイン力を作品写真とともに見ていった。

一方署名は作品鑑賞に大切な要素で、真贋は勿論、好きな作家ほど作品内容と共に制作年代を知りたくなる。当然のように三郎の署名も時代とともに変化が見られ、私なりの解釈を述べてみた。
当然ながら文様よりも遙かに難しい話題であり理解可能な実証も必要だった。

まず当館に青磁と白磁2つの鉢があり、それぞれに牡丹と椿が陰刻されている。両者の器の署名は珍しく楷書に近い書体で丸い縁取りもまた陰刻されていた。色絵の多い作品とはやや異なる様式と署名は魅力的だが肝心の制作年代が分からずじまいだった。

かくしてしばらくの間、樹下美術館の齋藤作品には、以下二つの謎が存在していたことになった。
①齋藤三郎の戦前(昭和12年~15年)と戦後(昭和23年初窯以後)で署名に大きな異なりがある。両者の隔たりはどう繋がるだろうか?
②これとは別に、丸や楕円の枠に囲まれ陰刻された楷書風の署名はどの時代のものなのか?

小なりと言えども美術館と名乗る以上収蔵品の制作年代や署名について大きな不明があるようでは話にならない。

しかし双方の謎は、あるお茶人から拝領した香合と新潟県立近代美術館が収蔵する「呉須搔落牡丹文瓶」の署名によって私なりに一応の決着を見るに到った。

以上の主旨で1時間余の話、本日は遅くなりました。続きは後日にさせて下さい。

ところで講演(トーク)は午後2時開始で、3,40分前に会場に着いた。場内に20脚ほど椅子が用意されていてこれで十分と想像し、時間があるので齋藤三郎展をひとまわりした。
戻って仕度を始めると人が増えはじめ、スタッフが次々に椅子を足した。それが足して足しても増え、最後には館内の椅子を総動員するまでになり、私自身とても驚いた。

立っている人も何人かいて、この会場始まって以来の参加者だったという。

「海風」というビジネスネーム。

2023年9月7日(木曜日)

今年2月から木曜日を休診日にさせてもらっている。だが春から色々と企画展が連続し、8月中ばまで準備や告知、報告などで休みといえども忙しかった。それが本日は休日らしい日になった。

午前中パガニーニの伝記などを読んだり今になって吉村妃鞠のYouTubeを観たりして過ごした。午後は朝昼兼用食を美術館に持参し、田んぼの見えるベンチで食べた。

大変軽い食事。

8月以後、連日危険で災害的な暑さが続いたのが昨日の雨が上がると本日は30度を下回る涼しさになった。久し振りにベンチで風に吹かれ田を眺め本を読み食事した。

カフェではA氏が昭和時代にヨットを一緒にしたB氏と連客されていた。久し振りのB氏は定年になりましたと言った。
かって氏ら若く元気なクルーとともに佐渡や能登のレースなどに参加した日が昨日のように思い出される。そして「早いですね」と二人の口が揃った。

カフェの後、篠崎展を観るというので案内した。月明かりの美しい色彩と独特の雲と海が描かれる幾つかの絵、そして絵本「青いナムジル」の馬頭琴の挿絵などを一緒に観て回った。

篠崎正喜作「海風」
35×49㎝

自分なりのことだが、篠崎正喜さんの作品の話をするのは楽しい。ほぼ半分を観終えて「海風」の前に来ると、B氏はあっ、と小さな声を出し、「俺と同じ名前だ」と言った。
「俺も会社で海風という名前だった」と仰る。
B氏が海風?あまりに唐突で何のことだか分からなかった。
聞けば会社は社長の方針で、社内では本名を使わず各自好きな名を名乗ることになっていたという。それで氏はヨットに乗り海に親しんでいたので「海風(かいふう)涼(すずし)」にしたんだと話した。

社長が先進の人で、会社では個人のしがらみを捨て新たに社風のもとで歩もうとの意図から皆がそうしていたという。
ビジネスネームというものがあるらしいと耳にしたことはあるが、エンジンや機械に詳しいB氏の会社がそうで、当人は「海風涼」だったとは。
本当にびっくりして国家公務員だったA氏と私は目を丸くして、もともと目の丸いB氏をまじまじと見た。
ああ海が好きでヨットを愛したB氏らしい素敵な名前だ、そして何て良い会社なのだろうと思った。

本日はその後ゴルフの練習に行きました。

10月12日(木曜日)15時から篠崎正喜さんの「生成AIと美術」のギャラリートークを致します。35席ほどの予定で、入場は無料です。
美術の最も新しく切実なテーマではないでしょうか。お暇をみておいで下されば有り難く思います。

篠崎正喜さんの「追想」と細部。

2023年9月6日(水曜日)

現在好評開催中の篠崎正喜展。
氏の作品は大変カラフルで、しかもその色彩は外見される色の成分が明暗とともに緻密に構成されているよに観察されます。一種の点描でしょうか、10月12日来館されますが、その折にぜひお聞きしてみたいことの一つです。

さらに作品の細部にはテーマを補完するように小さな場面が描かれます。照明などの関係でよく見ないと分からないことがありますので、前回の「海辺の街」や「六月の花嫁」同様大きくして掲げてみました。

今回は作品「追想」です。

鮮やかな夕暮れの「追想」

かっての恋人が在りし日の自分たちを思い出しているロマンティックな作品。爽やかな夕べの海辺で、美しい女性がの周囲に以下の様な場面が描かれています。

野外の小さなバーカウンターに一人の男性が座っている。

 

そのそばの丸テーブルにも似た男性が一人飲んでいる。隣の猫が可愛い。ダンスをするのはかっての自分たちのようだ。夕暮れの良い時刻、テーブルの灯りがとてもきれいだ。

暮れた岬の先に三つの島影
島や岬の景観は憧れ。

「追想」は鮮やかな女性とは対照的に少々切な気な男性がそっと描かれている。私は男なので、むしろ男性が「追想」として女性との事を想い出している作品として写りますが、皆さんは如何でしょうか。

月が上り始めた戸外の情景をどうしてこんなに鮮やかに描けるのでしょう。

10月12日(木曜日15時から篠崎正喜さんの「生成AIと美術」のギャラリートークを致します。35席ほどの予定で、入場は無料です。
美術の最も新しく切実なテーマではないでしょうか。お暇をみておいで下されば有り難く思います。

楽しい「6月の花嫁」の細部。

2023年8月28日(月曜日)

今日は去る8月25日に続き、開催中の篠崎正喜展から作品の細部を見てみたいと思います。取り上げるのは「6月の花嫁」です。
特注した木製の皿にキャンバスを貼り樹脂絵の具でコーティングしてから描かているようです。

「6月の花嫁」
当館で撮影、黒バックでトリミング。時刻は篠崎氏得意の月が上る時間の設定です。オレンジ色の花嫁衣装の美しい女性は電車が往き来する郊外の森の駅近くで描かれている。

花嫁の右側奥で、飲み物が置かれたピアノにうっとり顔のライオンが座り、ピアノの上で猫がバイオリンを弾いています。

続けて皿の縁をぐるりと眺めてみました。花にまじって動物と野菜、果物が描かれています。

今日は描かれた四種類の動物を眺めてみました。

ウサギが作者お得意のガラス玉を持っています。青がとてもきれいです。

 

愛らしいりすです。手にしているのはドングリでしょうか、ガラス玉でしょうか。

一番下は熊。

9時の位置に小鳥。

さてそのほかに動物と動物の間には様々な花と共にリンゴ、トウモロコシ、カボチャそして柿が描かれています。

六月の花嫁を動物や野菜、果物などが豊かな森と共に祝福している作品です。

不肖私も6月が一番好きな月です。安定した空、溌剌とした緑、作物が育ち花々は喜ぶ、、、。樹下美術館の開館を6月にしたのもそのようなことからでした。

2007年6月10日、開館式の様子。
当時の木浦正幸上越市長の顔が見えます。

2007年6月10日はとても良いお天気でした。

10月12日15時から篠崎正喜さんの「生成AIと美術」のギャラリートークを致します。35席ほどの予定で、入場は無料です。

篠崎正喜さんの「海辺の街」。

2023年8月25日(金曜日)

10月17日まで好評開催中の篠崎正喜展。氏の作品には独特な鮮やかさ、こまやかさ、そしてある種旅情と平和な時間が描かれる。
本日は作品「海辺の街」からそれらについて私なりに観てみたいと思う。

「海辺の街」33,5×47㎝

南欧あるいはイスラムまた中近東?など、とりとめ無い雰囲気の街が一塊(ひとかたまり)になって描かれている。二つの島があり一艘の船が浮かぶ濃い色の海の水平線を、真っ白な雲が囲み大気は澄んでいる。そこは形を変えた作者のふる里かもしれない。

手前の大通りを見ると色々な人が様々に描かれ、ゆっくりした時間が流れている。以下作品の細部にカメラを向け拡大し、一瞥しただけでは見逃しそうな作者のこだわりと描かれた生活の一端に目を遣ってみた。

最も左でトラックの荷の積み降ろし。

建物の通用口と思われる場所のトラック。明るい緑色のトラックと黄色の幌が軽やか。手前のカップルの長い影が人の息づかいを浮かび上がらせている。

トラックの荷はこのバザールのためのものらしい。しっかり付けられた影が人物たちに存在と生命を与えている。

中央~左部分。

手前にレトロで良い色の車が二台走っている。建物の入り口の右に犬が、左に女性が果物?を売っている。さらにその左にヤギのような犬を連れた男性が角をまがろうとしている。

中央から右部分

お洒落な半円の前壁の建物の左にウィンドウがあり、張り出されたポスターを男が立って見ている。建物は映画館であろう、小さな窓は切符を売る窓口か。建物入り口にもぎりの女性がいる。路上の自転車は子供のようだ。小さな町の心意気ある映画館に作者の思い出があふれている。

作品右下の屋上で猫が
こちらを見ている。

一種広場のような通りは車椅子を押す人影が見え、思い思いに人々が行き交う。影の長さから午後の遅い時間であろう。

 

混雑した建物の屋上のあちらこちらにガラスの半球があしらわれている。美しいガラス球(玉)は作者お得意のモチーフで、様々な場所で不意に登場する。街並にはお城のような建物も見える。

中央の和風(中国風?)の建物は
お寺か。

描かれるガラスは並々ならぬ研究の賜物ではないだろうか。色彩や厚みの違いも美しく描き分けられる。

以上ざっと見てきたがまだ何かが隠されているような気もする。そう思わせるのが街というもの、あるいはその営みではないだろうか。
小さな映画館やお寺のあるゆっくり時間が過ぎる澄んだ大気の街。行ってみたくなるような平和な「海辺の街」を紹介してみました。

この先他の作品の細部もまた観てみたいと思います。細部は篠崎作品の特徴で観る楽しみの一つです。

写真2枚目と3枚目は前日の積み残しで翌日追加致しました。

10月12日15時から篠崎正喜さんの「生成AIと美術」のギャラリートークを致します。35席ほどの予定です。

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