明け暮れ 我が家 お出かけ
異常な暑さ
まったく異常な暑さが続く。お年寄りたちを中心に発熱される患者さんが急増していて点滴が続く。熱中症は室内で過ごしている方に多いという報道は真実みがある。
やや奇異なことだがCRPや白血球が著しく増加し、単純に熱中症だけとは考えにくい方も混じる。普段潜んでいる感染症が、疲労と暑さにあぶり出されて急襲するような実感さえある。
比較的若い何人かにも数日の点滴が必要だったし、全体で少なくとも3人の方は緊急入院を余儀なくされた。糖尿病の方は特に用心が必要なようだ。
その昔、クーラーの有無がお年寄りの運不運を分けたような夏があった。しかし広く普及したはずの今年、それを越える脅威を感じる。この猛暑、なんとかひと休みしてくれないだろうか。
午後アイスティーが出ていて、しばらく飲まずに眺めた。
背振嶺(せふりね)に
背振嶺に腰うちおろし居し雲は 夕方負けて流れ染めつつ
(母の覚えのママ)
昨日の車中でもう一つ母から話を聞いていました。連日で恐縮を禁じ得ませんがどうかお許しください。
昔話:背振嶺に
弟を背負って登校していた母は後に九州大学の看護部に進学した。寮生活は思い出深く、小野寺内科の実習は充実していた。
病院のことと言えば、内科の医師に背が高く若いA先生がいた。足を大きく振り出してゆっくり廊下を歩く姿が印象的だった。
A先生から自作の短歌を見せてもらうことがあった。その中で背振嶺の一首をよく覚えている。背振山(せふりさん)は霊峰で、佐賀県と福岡県境にあったという。
以上が昔話である。掲げた歌にはもしかしたら垢ぬけなさはあるかもしれない。しかし南国のとある日に、山と雲が織りなした旅情は鮮やかだ。同時に、その日窓外に目を転じていた若い医師がいたことや、彼の時間などに不思議なリアリティを感じる。
時代は昭和7、8年頃か、深刻な不況と中国進出、軍国化など背景は穏やかではない。A医師はその後どうされただろうか。母のほうは学校を出ると時代に押されるように満州へ渡って行く。
何で年ゃとろろ
昼、三泊のショートステイを終える母を迎えに板倉さくら園へ。車で40分ほどの距離だが、母が昔話をするのにちょうど良い時間だ。老人に元気を出してもらうには話をさせるのがまず一番だろう。たいてい初めての振りをして同じ話を聞いているが、最近は多少リードが必要になってきた。
下界は猛暑、空に涼しげな昼の月。
昔話:何で年ゃとろろ
母喜代は7才の時に台風の事故で父を亡くしている。祖母ヤイは行商に出て身を粉にして一家を支えた。乳離れしたばかりの弟の子守はもっぱら小学生の喜代の仕事だった。
学校へは弟をおぶって通った。同じような生徒が6,7人いた。用務員さんの娘さんが子どもたちの世話をしてくれた。お昼は子どもたちの部屋で弟と一緒に食べた。たまに子守のない日があって、皆と食べるのが嬉しかった。お世話の娘さんは優しかった。
通っていた佐賀県内・古枝(ふるえだ)小学校のお弁当時間には良い習慣があった。昼食中に生徒が順に教壇に立って、家の話や一口話をすることになっていた。
ある日、恥ずかしがり屋のおよしさんの番のこと。「昨日、うちのバーちゃんが“何で年ゃとろろ”言いました」、と話したという。どうして年を取るのか、という老人の嘆きたが、「とろろ」が可笑しくて子どもたちは大笑いをしたらしい。
喜代に家族のハンディはあったが、囃されることもいじめられることもなかったという。
ゼバスティアン
ゼバスティアンはドイツの若者だ。7年前、彼が高校一年生当時、上越市の頸北ロータリークラブにおける交換留学生として責任者S氏宅を軸に一年間のステイをした。
電車で上越高校へ通い、剣道にも励んだ。高校の担当者に恵まれて日本語を良く覚え、地域と家庭に親しんだ。
私の所では一ヶ月半のステイだった。ある日、ドイツの子どもの遊びと言って、隣の雑木林にネズミ取りのカゴを仕掛けた。一週間も空振りだったが、必ず掛かると通した。後日見事に捕った時は大はしゃぎだった。
大好きな囲碁では負けると床を転げ回ってくやしがったが、すぐに私を負かすようになった。
帰国して2年後、家族5人で当地を訪ねてきた。我が家の訪問の際に拙いテネシーワルツを弾くと、皆でダンスをはじめた。仲の良い家族の情景は眩しかった。
成長した彼。樹下美術館裏の農道で。
それからさらに5年、このたび自国の大学院進学前の休暇で三回目の来日を果たした。昨日午後、樹下美術館を訪ねて熱心に展示を見てくれた。5年前の時、私がここに美術館を建てたいと言ったのを覚えていて驚いた。たくましく成長していたが、優しさは変わりなかった。
今回、夕食は直江津の知人宅でお世話になった。夕陽を見ながら心ゆくまで楽しい夜をすごさせて頂いた。
ホームステイといえば、10年前にはニュージーランドの高校生を3ヶ月ほど預かった。彼は吉川高校へ通って、放課後には剣道に精進した。帰国後、彼も再来日し、ついには日本で日本人と結婚して可愛い子どもにも恵まれている。
二人とも個性的で心ひろやか、時折真っすぐな道徳の芯を見ることがあった。彼らの果敢な交流には平和への一灯として十分な意義がある。また斯く交流は、何かと排他的で硬い政治の下では為し難いものとして写る。若き日の頸北の一年、何かが彼らを惹き付けたにちがいない。
実況!20分で晩ご飯
夜九時すぎ、少し離れた部屋のテレビから絶え間ない男性の声が漏れてくる。時々妻の笑い声も聞こえるので、行って見た。
NHKの今日の料理だった。目がぎょろりとして愛想顔の料理人がおしゃべりしながら忙しく振る舞っている。タイトルは「実況!20分で晩ごはん。キャベツ混ぜ混ぜぶっかけそうめん」。刻々残り時間を告げられながら、説明に追いつかない手が宙を舞ったりする。
時間で責めて、料理人をイジメているように見えなくもない。しかしジャストでゴマだれ味のソーメンにサラダ、炒め物とデザートが出来た。サッと短時間で作られたためよけい美味しそうに見える。
終わって「あー、疲れた」、「しかし楽しかったー」と、とても正直な講師だった。NHKのこと、特殊な材料も使わず誰にも作れる料理のはず。優れた創意工夫が求められる仕事にちがいない。助手も付けずにさすがだった。
講師は齋藤辰夫氏。パリなど日本大使館料理長の経歴が載っていた。
母の七夕を描いてみた。
七夕の事を母から聞いてから少しずつ情景を想像して筆を動かしていた。母の実家については、4才になった頃の幻のような記憶しかない。昭和21年3月らしい時、旧満州から佐世保に引き揚げて、佐賀県の大村方(現鹿島市古枝大村方)の家に10日ばかり寄っただけだった。
母からはあまりに楽しそうに聞かされたのでイメージだけで描きやすいように描いた。描くことは好きなはずだが、泣きたいくらい稚拙のまま時期もあるので終了とした。塗り残しもあったりして、出来ればもう一度描いてみたい。
話変わって、去る日曜日のゴルフは15位で大波賞(61,53)だった。クッキーや缶ビールなど賞品二つをありがたく頂いて帰った。次回も腕の代わりに靴を磨いて参加しよう。
朝露で七夕の短冊を書く
今日七夕の日、素晴らしい大潟区の水田(高橋新田から吉崎新田への道から)
今日は七夕。遠い昔に天の川が見える夜もあったような気がするが、近頃はどうなのだろう。何かと母の話で恐縮だが、大正4年生まれの母によく以下のような七夕の話を聞かされた。
その昔、佐賀県の大村方(おおむらがた:現鹿島市古枝大村方)の子どもたちは七夕の朝早く、手に手に盃を持って田んぼへ急いだ。稲に宿る朝露を集めるためだ。盃を稲にこすりつけるようにして皆真剣に集めた。
家に持ち帰った露で墨を刷って短冊に願い事を書いた。前後して山の方から男たちが竹を売りに来た。笹をいっぱい付けた長い竹を束ね、ザーザと地面を引きづりながら歩いて来た。
竹は下の方の笹を払った立派なものだった。間もなく家々に五色の短冊を付けた竹が高々と立つと、村はとてもいい眺めになった。家並は茅葺きだったかもしれない。
これだけの話だが、うっとうしい梅雨空の下さわやかな情景が目に浮かぶ。時代はそれぞれ色々だが、詩情という点で昔は決してあなどれない。
※母たちは稲の露を採った。しかし多くの地域ではサトイモの葉に溜まる露を用たらしい。
憧れの地平
昨夜はもしかしたら、と胸躍らせてサッカーの中継を見た。いくつもチャンスはあったが、パラグアイの執拗な圧力に胸がつぶれそうだった。
ゲームは得点のないままPK戦になった。PK戦は悲壮だ。何万人の観衆の前で国の威信を背負って一人で攻撃を受けるキーパー。処刑に近い残酷さを感じた。それがある選手がキックを外した瞬間、残酷さはそのキッカーに飛び移った。
ゲームの運不運は過酷だが、大会を可能にしている平和の有り難みは尽きない。
さてこの度の8強入り。代表チームが憧れの地平を目前にしていたことがサッカー素人の私にも分かった。選手たちに手応えがあったにちがいなく、本当に惜しかった。
新しい地平、見晴らしのいい世界はなんとしても憧れだろう。キックを外した選手のトラウマは深かろうが、変わらぬ憧れが彼を癒していくように思われた。
不肖私には、のんびりした気楽さへの憧れがつのる。印刷所に申し分けないが、明け方まで関わっていた図録の制作を遅らせてもらっている。もう少し丁寧にしてみたいのと体がそう望んでいるようでもあって。しかし諦めたわけではないのでそう遠くならないうちに、と考えている。
チマキと笹餅
梅雨の盛り、連日頂き物をして恐縮を禁じ得ない。昨日は笹餅、本日はチマキを頂いた。いずれも梅雨時の越後の味覚だ。
ところで一昨日の夕刻から夜にかけて上越一帯も豪雨に見舞われた。移植の穴堀りをしていた庭で、突然放水を浴びせられるような雨にあってずぶ濡れになった。梅雨の終盤、気温の上昇と共に雨は油断できなくなる。
田では、晴れ間をみてあぜ道や農道で草刈りが盛んに行われていた。梅雨が明ければ一帯の水田は生気に溢れ、頸城平野は壮大な美観となることだろう。収穫まであと3ヶ月、無事なお天気であってほしい。
淡路の先輩から鯵、そして西方の人
昨日、学生時代の運動部でお世話になった淡路島の先輩からトツカアジが届けられた。他所のアジとは「まるでレベルが違う」としたためてあった。外見は普通のアジに見えるが名は初めてだった。
送り主のA氏は昭和30年代後半、母校の軟式庭球部を医学部リーグの団体戦で全日本制覇させたエースだった。氏の身体能力と勝負勘は文字通り群を抜いていた。
振り返ると学生時代に交わった西日本(関西・四国・九州・一部東海も)の級友、先輩は私などとは随分違っていた。男っぽく勝ち気、顔立ちも精悍。同じ日本人なのに異国の人の印象さえあった。
「いいか、相手がこう来たらこう行くんや」、部員たちを見回して檄を飛ばすA氏。眼差しには熱さと冷静さが共にあった。
さて頂いたアジを昨夜は手巻き寿司に、今夜は塩焼きにした。添えられた手紙に寿司メシの要点が記されていた。その通りに作った妻は出来上がりの加減を絶賛した。淡路のお寿司屋のレシピに準じているらしい。
そして今夜、こんなに美味しいアジがあろうとは、と声を揃えて塩焼きを食べた。
鯵は普段でも関脇以上の美味しさだが、この度のトツカアジは明らかに横綱を倒そうという勢いがあった。親交ある王元監督にも送ると書いてあった。
A氏は仕事をセミリタイアして釣りを始められた。同じ部活で、補欠を争っていた私などを忘れないで下さり光栄だと思っている。また全日本を制した当時のA氏のペア(前衛)が新潟県・県北の先輩だったことも密かな誇りだ。
電話で礼を述べると、塩焼きを今日に遅らせたのは正解だということ。また、鳴門の荒潮で揉まれた魚は日本海の上品な魚とは違うんだ、と先輩らしい言葉を頂戴した。
所変われば品変わる、そして人も。私が知った西方の人たちは、おしなべてハキハキとして勝負強く、情が厚い。こちらへ帰って35年、たまに電話や手紙でA氏に接すると、ただただ有り難く元気になる。
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