医療・保健・福祉・新型コロナウイルス
ついに新型インフルエンザ
今週初め、私の診療所で大きな出来事がありました。新型インフルエンザの経験でした。これが過日記述したフェーズ6なのかとやや奇妙な感じでした。掲載を迷いましたが、今後に向けて少々のことを綴ることにしました。
下の写真は診療所に続く古い自宅居間です。ここは廊下同然、ある種空き部屋になっていました。少し前に部屋を片づけて、ティッシュ、医療用ゴム手、アルコールジェル、聴診器などを置きました。新型インフルエンザが疑われる患者さんに備えるためでした。
7月27日月曜日午後、診療所の受付で「39度1分です」というスタッフ同士の会話が聞こえました。気になりましたので、「待合室は止めて、マスクと手の消毒をしてもらって」と話しました。関東から旅行中の児童と付き添いさんです。待合室には4、5人の一般の方がおられました。
すぐに看護師が二人を外から写真の居間へ誘導しました。ここで鼻腔から採取した児童のサンプルが迅速診断キットでA型陽性でした。新型インフルエンザが濃厚です。その後、保健所とのやりとりで、児童の自宅で姉が新型に感染していることがわかった、と知らされました。
翌日、保健所員がPCR法(確定診断)のサンプル採取用具を持参しました。写真の部屋で付き添いの方ほか4人を対象に鼻腔からサンプリングをしました。7月29日、発熱の児だけがPCR陽性、新型インフルエンザ確定と知らされました。
マスクや手袋で対応した私たちスタッフは濃厚接触者とみなされないということでした。またその後の異常もありませんでした。
振り返れば医療機関の対応について、公式な通知が次々と変わった時期でした。正直、診療は漠然とした戸惑いを否めませんでした。また居間での診察の適否も課題でしょう。簡単ながら以下のような感想をまとめてみました。
①新型インフルエンザはやはり身近にあった。
②新型インフルエンザは夏でも油断できない。
③夏休み中のサーベイランス(届け出・監視)は別途の考慮が必要かも知れない。
④夏休み後、学校を中心に急速な拡大の懸念がある。
⑤日常の予防(清潔習慣、カゼのマスク着用など)はずっと続けたい。
この度の対応はやや事大だったかもしれませんが、以下のことを意識しました。
「ウイルスはまだ若く、強毒化や通年性(夏型?)など今後、思わぬ変異を否定できない。感染が増えれば変異機会も増え、そして死亡者も。この一点で、当面はほかの疾患よりやや厳格な扱いが求められるのではないか」という意識でした。
話題が美術館から離れてしまって、申し分けありません。お互いが意識を維持して、なんとか新型インフルエンザを乗り越えましょう。落ち着くまで数年はかかるとも言われています。
フェーズ6
先日フェーズ5を書いたばかり。ついにWHOは新型インフルエンザの警戒水準を6にした。こんなにやんわりとした形は想像出来なかった。しかし国内外の感染は穏やかさを装いながら着実に拡大している。一方で夏場も続く流行は衣の下に鎧を見る思いがする。
これまで国の対応はなにかと劇場的でやや滑稽だった。これから本番、安直な点から面へ、形式から科学へ、新たな英知の結集を願いたい。
チャンWHO事務局長はこのたび以下の指摘をされた。
○今後感染の首座となろう南半球の途上国への支援。
○予想される2波への備え。
○ことは始まったばかり。 まったくその通りだと思う。
終息まで数年の見通しが示された。長引くほどウイルスは複雑な変異を重ねるだろう。南半球の推移を見ながら連立方程式に挑むような作業がはじまる。
美術館の作品と庭は相変わらず静かで元気だ。
夢みはじめたガクアジサイ | 間もなく開花、120本のテッポウ百合 |
グループホーム
近くにグループホームがあって、月に一度伺っている。グループホームでは一定の認知症のあるお年寄りの方々が職員さんたちに見守られながら協同的に生活をしている。部屋は個室。介護保険の時代になって伸び、それぞれ地域で大切な場として定着している。
館内は穏やかで、時々皆さんとスタッフさんの歌声が聞こえたりする。今日の訪問では目の前の林に白い藤が沢山咲いていた。
長いつきあいとなったAさんの部屋で小さな箱を見せてもらった。彼女の大好きな可愛い可愛い品が入っていた。ここでは多くの方が、それぞれに大好きな品を持っている。
皆さんが比較的安定していて長くいらっしゃるのが嬉しい。
押し車の荷台に小さな箱。緑色の蓋が付いている。
ゴッホのアーモンドの花の絵に似た白藤。
フェーズ5のゴールデンウイーク
ゴールデンウイークがピークに入った。子ども、孫達、縁者が次々にやってくる。今日は5人、明日は2人、明後日は6人。ほかに親たちの世話もあるから大変だ。それでもアテにされれば頑張ってしまう。本当に大変なのは妻。大丈夫だろうか。
段々と家の泊まりを少なくして、近くの温泉宿などに分散してもらうようになった。親を長くみて子もそこそこ見る世代など、私たちの前後が初めてで最後かもしれない。
夕刻、庭でクレマチスの棚を作った。昨年のもいれると5つになった。庭は本当に落ち着く。実は家のそばにいるのが何かと安心で、ある種職業柄の中毒症状?
庭から田んぼの向こう300メートルほどに高速道路が見える。上下線とも切れ目無く車が続く。猛スピードのパトカーが忙しそうだった。
4月28日、フェーズ4移行をを書いたばかりが、瞬く間に5となった。新型インフルエンザの危機につま先を浸しながらの民族大移動。フェーズ5でここまで許容なのか、本当のところ不安がある。
検疫は頑張っているが一方で医療体制に穴が見える。やや小康の今、不足克服を願っている。休暇中だが行政や医師会は会議だろう。
昨年から集め始めたシーグラス。
疲れを慰めてくれる。
マーガレット・チャン
WHO(本部ジュネーブ)のマーガレット・チャン事務局長は29日、新型インフルエンザの警戒水準を4から5に引き上げた。彼女は「パンデミックが差し迫っているとの強い警告」と述べ人類全体が深刻な危機にさらされているという認識を示した。
突然の大事に対して、チャン氏の一連の決定行動は素早かった。今後どうあれ、これまでの決定と結果の確度の高さに驚く。鳥インフルエンザ一色(一定の方向転換が始まっていた模様)の世界で、かつ経済減速のジレンマの中、畏敬を禁じ得ない。
「国籍を忘れて任務にあたる」。就任時の彼女の言葉だ。氏は中国人で2006年から現職にあるという。また過去、香港における最初の鳥インフルエンザで、猛反対のなか大規模なニワトリの処分を行い、SARSの苦い経験ではその渦中にあったと書かれている。たぶん現場で火中の栗を拾い続けた人なのだろう。氏の警告には耳を傾けていたい。
本日国内でも疑い者が出た。このほか体制が追いつかず、水際で相当数の検疫漏れがあった模様だ。残念だがこれが現実なのだろう。そして自衛隊の医療部門が投入された。検疫の現場はすでに疲労が始まっているのではないだろうか。ぜひ二次感染も回避して欲しい。地域医療の担い手の一人として緊張して備えたいと思う。
新型インフルエンザの第一ラウンド
28日、WHOは前回に続いて再度の緊急委員会を開いた。そこで豚インフルエンザの警戒水準をフェーズ3から4に引き上げた。名称も豚インフルエンザから「新型インフルエンザ」へ。H1N1変異ウイルスの同定からわずか1週間。第一ラウンドで一気にパンデミックへのルートが開けてしまった。
ブタのH1N1はヒトと共通していて、相手はすぐ近くに居たことになる。スペイン風邪から続くH1N1由来の亜型であり油断出来ない。鳥とともにアジアのブタも当面の鍵となりそうだ。
評価はともかく、昔読んだライヤル・ワトソンの「生命潮流」をふと思い出す。ウイルスにも集合無意識(ミーム?)のような同時現象があるのだろうか。地球の表裏から出発した複数の新型が交雑するようなストーリーで。
相手はまだ若く変化自在と考えられる。後追いを余儀なくされるワクチンが安定するのに年単位の時間が掛かるかもしれない。抗ウイルス薬はどうだろう。薬剤感受性とウイルス変異へのモニターは欠かせない。当面タフな根くらべが続く。
好材料が乏しい今、スペイン風邪の徹底した解析は一部で有望なようだ。願わくばこの規模で一旦終息し、時間を稼ぎたい所だろう。一連の経緯は人間があざ笑われているようで悔しい。
右下のルートが如何にもと見えてくる。
咳エチケット(大きくしてご覧下さい)
※再び美術館から離れてしまい申し分けありません。
豚インフルエンザ
長くなりますがすでに昨夜、豚インフルエンザについて報道されていた。メキシコで4月23日までに854例を越える感染者と死者は59例ということ。加えてアメリカでも7人の感染が報告された。(当初メキシコの死亡報告は疑いも含めて発表されていました:後日追記)
さらに本日、ニュージーランドでメキシコから帰国した複数の学生と教職員が疑われ、フランスでも2人が疑われていて事態は深刻に見える。
WHOではこの度の感染が
①動物からのものであること。
②患者は若年者に多いこと(乳幼児と老人は少ない)。
③地域を越えて発生していること。
などから新型インフルエンザの可能性を示唆している。
25日のジュネーブにおけるWHOの緊急委員会で、フェーズ1~6段階の警戒水準で3(人への感染は無いか、非常にまれ)としている。一方フェーズ4(小さな集団で発生)への移行を真剣に懸念している模様。フェーズ3はすでにパンデミックを視野に置いたレベルであり、4・5に入ればパンデミックの可能性が現実味をおびてくる。はたしてどう動くのだろう。当面最高度な課題にちがいない。
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20090426ddm001040104000c.html?link_id=RAH05
ところでニュージーランドで確定診断がつけば、アジアへの拡大が心配され、そこでの流行はパンデミック(フェーズ6)のカギとなるかもしれない。
それにしても何故メキシコだったのだろう。鳥インフルエンザの報告が無かった国で。ウイルスの専門家ではないけれど何か奇異な感じを受ける。これはウィルス自身が生き残りを賭けた大きなストーリーのほんの始まりなのだろうか。ならば人の英知は?
http://idsc.nih.go.jp/disease/avian_influenza/map-ai2009/tori090424.gif
予防と治療では、すでにワクチン製造に向かっているはずだが、当面存在しない。一方タミフルとリレンザは有効らしい。
まずは体温と急なだるさのチェック、帰宅時のうがいと15秒以上の石けん手洗い、鼻水・くしゃみ・咳の清潔対応など念のため丁寧にしていたい。
写真は診療所に入った公式連絡のファックス。内容が重複して大量だった。
・厚労省の関連ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/
・外務省の関連ホームページ
http://www.anzen.mofa.go.jp/info/info4.asp?id=264
飲み込み。そしてシーグラス。
休日だったが午後に往診があった。比較的安定していた脳梗塞の方。しかし数日来ほとんど飲食をしなくなったという連絡。ご本人はまだお若い。よく聞けば飲み込み障害のためひどくむせた日の恐怖感が引きがねと考えられた。早めに専門的なリハビリを受ける事にして点滴をした。
ところで日本は技術大国であり、とりわけ微細なテクノロジーに優れている。一方、飲み込み障害の裾野は広く深刻な課題だ。これには口腔、咽頭・喉頭、食道などの極めて複雑なメカニズムが関係している。ナノテクノロジーを進化させている今、飲み込みを補助するコンパクトな装置を願ってやまない。
やや穏やかな昼間だったので、近くの海に寄った。昨年7月、浜辺でシーグラスと貝を拾い、秋には海に戻そうと書いた。しかしそれが子どもたちや孫に喜ばれて、シーグラスはそのまま我が家にとどまった。その後、私が一番気に入ってしまい、暇をみては海へ行くようになった。
インフルエンザ
1月半ばから、当地でもインフルエンザが猛威を振るっています。タミフル耐性(効かない)が一部言われ、緊張します。一方、経過中の脳炎、異常行動へのご家族の不安や、一歳未満児へのタミフル投与は変わらぬ課題です。このことで身近な経験がありましたので記し、全体の感想を述べてみました。
【一歳未満児へのタミフル】
薬品発売元の見解は、一才未満児にタミフルの有効性は確立していない、控えて、という主旨です。
ところで先日、生後10ヶ月で40度を越える発熱のお子さんが見えました。悩みましたが、クループという気になる兆候が見えましたので抗菌剤と共にタミフルを使いました。
念のため1日目に2回、ご家族に電話で様子を尋ねました。初回の服用後2時間ほど経って嘔吐があったと聞き少々心配でした。しかし以前から咳こみの際、嘔吐はよくあるということ。「効果を期待して続けましょう、何かあったら連絡して」と伝えました。
翌日の昼、随分元気になってきたと知らされ、ほっとしました。経過は順調で、タミフルを最後まで続けました。
【脳炎、脳症の心配】
昼にタミフルを服用した園児が夕方さらに熱が上がり、「奇妙な独り言を言い始めた」と親御さんから電話。
「高熱や昼寝の目覚め前後に、うわごとを見ることがある」、「念のため冷たいお水をあげてみて」とお話しました。
翌日お母さんが来院され、「昨日はお水ですぐしっかりした。今度はこの子が発熱」、と別のお子さんを連れてこられました。ご家族も大変ですが、お母さんに前日よりたくましい印象を受けました。
【全体の感想】
・一才未満といえど、心身の反応は数ヶ月単位で変化し発達します。この期間のタミフル使用にもっとこまやかな見解を期待したい。
・脳炎、異常行動の備えでは、当然ながら観察の大切さを実感します。
・日本はタミフル頻用の国、一方で流行は深刻。常に確度の高い情報が期待される。
・現在、ワクチンの手応えがいまいちで、やや気がかりです。
・6人中5人のご家族が一気に発症するなど、確かに近年にない強い流行です。
・今のところ高齢者の方たちが比較的お元気なのが幸いです。
せん妄
ひどく気温が下がってみぞれ交じりの荒天となった。いよいよ越後の冬の始まりだ。荒れ模様の夜8時すぎ、あるお宅から電話があった。ショートステイを利用中の夫が、昨晩から寝ないで騒ぎ出したので家に帰された。家でも妄想にとらわれて大声や怒鳴りが止まず、診て欲しいという訴えだった。
ご本人は、肺疾患のため在宅で酸素吸入をしている高齢の男性で、奥さんと二人暮らし。酸素療法では鼻に付けるチューブが鬱陶しくて、外したがる患者さんは少なくない。しかし一旦外すと酸素不足のため、特に高齢者では意識の濁りを生じてひどい症状が現れる場合がある。今回の方は施設でしばしばチューブを外し、介護士さんも苦労したようだ。この日ご本人は、介護士さんが付けたチューブを噛み切ろうとして、自分の指まで噛んで負傷したという。
ところで浅い睡眠や一定の酸素不足,発熱、時に薬剤で生じる意識の混濁・混乱はせん亡と呼ばれる。かって99才のおばあさんは、庭に何十匹ものサルが攻めてきたと言って、長いホウキを手に一人で立ち向かった。ひるね直後のせん妄で、夢と現実の混乱が鮮明な幻覚を生んだと考えられた。往診に伺うと、庭に面したガラス戸はすべてめちゃめちゃだった。家族は呆気に取られていたが、ふとんに戻ったご本人は、サルを退治したと意気揚々だった。普段寝てばかりいる老人でも、強い観念に襲われると信じ難いエネルギーを発揮することに驚いた。
今夜の電話の向こうでは怒鳴り声がして、奥さんの声は震えていた。ふだん電話の背後に聞こえる怒鳴り声や泣き声、あるいは悲鳴は緊張する。今夜は、出掛ける前に「優しくそばに座ってみてください。そしてそっとチューブを付けてください。駄目でもくりかえして」と告げた。患者さん宅に着いてみると家は静かだった。「いま寝ました」、奥さんの声がまだ少し震えていた。チューブはちゃんと付いていた。数十時間も眠っていなかったのだ。本人は布団にくるまり丸くなって眠っていた。
医療には薬の要らない場合もあろう。何かあったらまた電話して、と告げて出た。あられ混じりの風雨のなか、奥さんが傘を差して車まで付いてくださった。
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