医療・保健・福祉・新型コロナウイルス

大潟沖の船とカモメ Jリーグは大丈夫か。

2020年2月24日(月曜日)

昨日は風強く寒く、大潟漁港では手が冷たくて往生した。一転して本日日中はよく晴れ、風も弱まり温かかった。

 

本日昼カモメを撮っていると直江津港からタンカーが出て来た。

 

ところでこれまで何度か新型コロナウイルスの件を書いてみた。免疫やこどものこと、消化器合併症と栄養などに触れた。一般的な経験則を拠り所に、さほど間違ったことは書かなかったつもりだが、動向には注意深く接して行きたいと思う。

目立ったところでひとつ、Jリーグが歌などを自粛して開催された。しかし今は問題ではないだろうか。

明日、国から全体について新しいまとめが公表されるらしい。

大きな海 小さな小さなウイルスの理解。

2020年2月23日(日曜日)

昨夜から台風にまさるとも劣らない風が吹いた日曜日。
大潟区渋柿浜の大潟漁港の波は圧倒的だった。カメラのレンズに絶えずしぶきが吹きつけ、何度も拭かなければならなかった。

 

 

いっとき陽が射した時間に堤防に当たる波しぶきは迫力があった。
このような時に一瞬虹彩がかかることがあるが本日見られなかった。

目に見えない小さな小さなウイルスがひきおこしている災禍の日常で、大きな海の動静を眺めるひとときは少し気が休まる。

いま季節は移り、移動、進学、引っ越し、歓送迎会、スポーツイベントと観光シーズンがはじまっている。コロナの状況はようやく日本人メインになってきた。対応の中に多くの外国人が介在したこれまでに比べて、状況に幾分整理がついてきた。ここに到っては、大声のマスイベントなどは暫く見合わせ、新たな封じ込め対策を実直に実行し確実に克服に向かった方がいいと思う。

経済のダメージは大きいが、だらだらと進めて、何時終わるともしれない深みにはまるのが最も良くない。緩むこと無く綿密かつドラスティックな対策を是非履行してもらいたい。

今ウイルスは何を求め、どんな環境を喜び、何を嫌やがるかを知り、どんな状態に置かれているかを理解することは、私たち一人一人にとって有益ではないだろうか。敵を知り己を知るのは戦の基本。〝本当の専門家〟の話を聴いてみたい。

インフルエンザ、ノロ、ロタ、コロナなどウイルス疾患と栄養の重軽。

2020年2月22日(土曜日)

新型コロナウイルス感染により、クルーズ船の乗客からついに二人の死亡者が出た。その中のお一人は84才の女性で、持病がないことで下船による治療が遅れた。
持病の有無にとらわれ、存在した下痢症状が軽く見られたフシがある。一般に疾患の過程で生じる下痢などの消化器症状は重症化に結びつききやすい。高齢であればなおさらであり、下船治療を急ぐべきだったと考えられる。SARS、MERSにおいて消化器合併症の重大さは経験されているはずであり、このたび軽視されたのはまことに残念だ。

ところで普段インフルエンザの予防や対策でしばしば〝十分な栄養〟が勧められる。しかしシーズンだからと言って、あるいは罹患により発熱や倦怠感を訴えている人に、言葉どおり十分食べるのを勧める事はリスクが大きい。
ウイルス性疾患はおよそ全身に作用し、しばしば消化器をも障害する。そこへ無理して食べ、過重な負担を強いた場合下痢、嘔気、嘔吐を生じ、回復に必要な体力と栄養さらに免疫を喪失し治癒の遅れと重篤化をもたらすことが危惧される。回復期ならばともかく、進行中の食事はあくまで無理をせず、消化器を保護する方向を考慮すべきであろう。

そんなことから私は、インフルエンザなどで受診される方の栄養については、基本〝十分に〟とは言わず、〝普段より軽めに〟とお伝えする。あるいは必要に応じて一定期間の絶食、さらに野菜スープの上澄みやお茶と梅干のみを勧め、食べ急がないようにとお願いをする。経験上そのほうが早く軽快するのである。

消化管がメインターゲットになるロタあるいはノロウイルスではなおさらであり、日常でも、過度な栄養より、ほどほど、あるいは軽めの方が身体の代謝が促され、免疫が強化されることを長年信じてきた(もちろん良質な睡眠はいうまでもない)。

来週の横浜行きを中止した 新型コロナウイルスは生活習慣も関係する少々変わった感染症なのか。

2020年2月15日(土曜日)

実は来週末横浜に泊まり、翌日は鎌倉で梅を見ることを1月に決め、新幹線とホテルを予約していた。
楽しみにしていたが新型肺炎の一件で急遽予定を全てキャンセルした。旅行は誠に残念だったが、どうしても足が向かなかった。

加うるに流行は市中に拡大する傾向を見せ、特に観光の動線にリスクを感じる動きになってきた。新潟県の報告は未だ無い。パニックほどではないが、医療関係者であるだけに万一発端になることだけは避けねばということがあり、中止して良かったと思っている。

ここに到り、海外ばかりではなく国内観光に二の足を踏む人も少なくないかもしれない。そもそもマスクをしてする観光は果たして楽しいだろうか、というのもある。その延長でいえば、この先何万というマスクをつけた観客が座るかもしれないオリンピックは、悪夢ではなければいいがと心配になる。

安易な見通しは厳に謹み、病態、疫学、診断、トリアージなどの精度を上げ、柔軟な受け入れ体勢を確立し、有効な薬剤とワクチンを急ぐほか道はない。未知の疾患だけに、大規模な知見を重ねている中国の真摯な取り組みと協力も不可欠であろう。

クルーズ船は果たしてどうすればいいのだろう。サーズとマーズにこの件はあったのだろうか、難しい問題である。
※ちなみに2003年6月9日更新として、以下の様にWHOから出された
国際クルーズ船における感染予防措置とSARS「可能性例」の管理 のページがありました。このたびの日本の措置の骨格はこれに基づいているのでしょうか。
http://idsc.nih.go.jp/disease/sars/update75-cruise.html

さて、言うまでも無く条件として密集と閉鎖環境は感染症にとって最悪であり、船そのものがそのままウイルスの培養環境にも変わり得る。新たな感染者と治癒者の平衡はどう推移するのだろう。水際をうたいながら感染者が増え続けているところをみると、防護マニュアルと実践テクニックの乖離が懸念される。検疫官や救急隊員の感染など、現場の疲労と汚染も想像され全く気の毒である。

一方で、繰り返される感染連鎖によってウイルス自身が変異強化されている懸念は払拭できない。当座多くを占める乗船者の引き取りに動きそうな米国の動向と日本の対応が一つの鍵になりそうだ。

それにしてもマスクは厄介な問題だ。感染者には吐き出すウイルスをとめると同時に、そこに蓄積させ濃縮させる装置に見える。一方予防者には空気中からウイルスを集め、局所の汚染を促す場所にも見えるのである。
特に慢性呼吸器疾患のある人にはマスクは苦しくてたまらないだろう。一般に呼吸の出納はかなりギリギリの平衡で成立しており、マスクによるわずかな制限が及ぼす心肺への影響は無視できない。高齢者に多い病態だけに感染の有無にかかわらず、このような人がいた場合、本当にマスクを付け続けることなどできるだろうか。

最後に、私は詳しくないが、船内の飲食と運動、あるいは喫煙などの感染症への影響は如何なるものであろう。これらの影響を受ける血糖の上昇機序ほか免疫能の動向もやはり気になる。
このことでいうとこのたびの武漢の正月大宴会、東京の屋形船での新年会はどうなのか。市中へ拡大した状況であれば、大勢の閉じられた密集空間における長時間の大声や飲食は、過労とともにいまやリスクかもしれず、配慮を要すべきものかもしれない。

サーズ、マーズとも私たちには経験が無い。いまのところこどもたちが免れていのは、疾患の一つの特異的側面であり、微妙な免疫の間隙を突いてきそうな点で、偶発的かつ大人中心の生活習慣が絡んだ感染症という、変わった病気でなければ良いがと、少し心配している。

落ち着いたなら是非とも横浜と鎌倉を満喫したい。

在宅医療は大事業 ヴァレンタインのプレゼント ジョージ・シアリング。

2020年2月10日(月曜日)

月1出向いている百才が近いおばあさんは、通い始めてから4,5年は経つ。
促されてベッドで目を開けると一瞬笑顔風な表情になるが、すぐに眠ってしまう。これまで骨折をしたり、執拗な呼吸器疾患や皮膚疾患、時に裂傷を負ったりして何度も病院へ行った。介護者にとって、寝たきりの方を病院に連れて行くのはその都度大変だった。

毎夜二時三時にもオムツを替える介護者の娘さんは、表向きには文句を仰るが、強い愛情をもって接しているのが分かる。
在宅医療というと場合によって美しく聞こえなくもない。しかし癌の方や長い要介護4,5レベルの方を看るのは、一種戦争のようでもあり、ご本人も寝ているだけではなく傷だらけになって戦っている戦士のように見えてくる。
概して在宅医療は一大事業だ。

本日の訪問で、おばあちゃんからです、と言ってお宅からヴァレンタインのプレゼントを頂いた。

 

介護者が作っているルッコラ。それにチョコレート。

 

今夜サラダになったルッコラ。

 


ジョージ・シアリングのマイファニー・ヴァレンタイン。
若かりし時代にラジオからよく聞こえたシアリングは幼くして視力を失ったピアニストで作曲家。
アメリカで活躍したが、晩年母国イギリスから大英帝国勲章を授与された。
1950年代であろう録音はモノラル。以前も書いたがモノラルのピアノは残響が少なく音がコロコロと丸く可愛く聞こえ、私は嫌いではない。

ここへ来て寒さが強まり、冬が意地をみせている。
今日も寒かった。

冬の半分が終わる昨今の卓上 気になる新型肺炎。

2020年1月23日(木曜日)

暦上の冬が半分過ぎた。
春は待ち遠しいが長くお世話になった人が去ることがあり、一概に楽しみばかりとは言えない。

雪が少ないとはいえこの時期、昔のドカ雪が思い出されやはり冬の本番というイメージがある。
そんな折、卓上にのぼった二三の食べ物を載せてみました。

 

お世話になりました、と訪ねて来られた方から頂戴したお菓子「福ハ内」。
節分向けのお菓子。一つ二つ食べてしまった写真です。

パッケージは豆撒きで用いる枡、お菓子はお福豆のイメージだという。桃山だがコーヒーにも合って美味しく頂きました。
上越を気に入っていると仰っていたご家族の皆様。どうかお元気でいて下さい、またお会いできることを楽しみにしています。

 

かって往診をした農家の奥さんが作っているという月餅。
本格的なお菓子をどうやって作るのでしょう。
色々な腕前を有している方がいるものだ、と感心しました。

 

 

越の雪というお菓子。
雪という字がつくと一段と上等な感じになる。

 樹下美術館うらの土手付近の庭で採れたフキノトウ。
どなたかに採られたのか、小さいものばかりでした。
毎年頂いているギンナンとのテンプラは良い香りがしました。

 

シラスが入ったサラダ。
シラスは春が旬らしいのですが、それとは関係無くよく食べます。

 

中国の新型肺炎(武漢肺炎)の報道が止まりません。春節の大移動、医療従事者の感染、海外の発症例、厄介なコロナウイルス、確実な治療法が無いなど、目に見えない相手だけに緊張します。

一方みている範囲のインフルエンザは大人の罹患者が多くなっている印象があります。まず自分が用心しなければと思っているところです。

超高齢者、福祉医療の隙間 日曜日の胎内市は中条の海岸。

2019年12月17日(火曜日)

先週末はお二人の看取りがあり、昼夜4回の往診をした。
かっての週末二日間に10回近く往診が必要だった日もあった頃に比べれば、楽になったと感じられる。

そのような中、事情によりやや長期のショートステイを利用中の方などで容態が悪化した場合、ご本人の境遇から施設、在宅とも行き詰まりを生じる場合がある。
ならば病院であるが、超高齢者をすんなり受け入れるのに地域の病院事情が十分な余裕を有しているとは限らない。このような場合往々にして関係者は、「なんとかして」と一斉にこちらを見る。だが考えるに事情は医療の範疇を越え、本来なら福祉職による諸機関の調整案件ではないか、と一人思案にくれる。
近時福祉分野の各職は高いモチベーションを有しているが、病院に対してもう一歩踏み込んでは、といまだに思うことがある。
本日たまたまこのような課題が予想される事例が生じた。是非とも関係ケアマネ、地域包括、病院連携室またワーカーが連携調整し、シュミレーションをして突破してほしいと思った。勿論相談に参加するし先が決まればしっかり紹介状をお書きするつもりです。

さてその先週末の日曜は午後をすぎて体が空いた。それで車を駆って胎内市は中条の村松浜に出かけた。
そこの海岸は当地近隣と異なり、さらさらと白い砂が広がる遠浅の海である。2009年5月にたまたま訪れ、白砂と見事な風車の列が気に入り、その年の秋にも出かけた。
最近コマーシャルだろうか時折テレビで流れ、冬如何ならむと思いたち、空を気にしながらで出かけた次第。

以下のように短時間でしたが海岸を往き来して写真を撮りました。

 

 

 

 

風が強く寒い日でした。
季節風によって漂着物が沢山ありましたが、夕暮れに紛れて少し写り込みを回避できました。
春になったら是非ともまた訪ねたいと思いました。

 

ところで昨日美術館に寄るとお客様が、私たちも新潟市でワイエス展を観てきました。館長の写真はワイエスの絵に似ていますね、と仰った。途方も無いトレーニングを積み、研ぎ澄まされた独特の感性を有し、時間を掛けて克明に描く芸術家に比べられるべくもありませんので、かなり面はゆい思いをしました。

140キロほどあるのでしょうか、日曜日午後の中条は少々遠かったです。短い陽を気にしながら早々に帰ってきました。

もうインフルエンザ、流行の始まりなのか?

2019年10月2日(水曜日)

熱風で菜園の野菜を枯らした17号台風の後、今週末に18号到来の知らせが伝えられている。

ところで、まだ日中25度を越える日も珍しくない昨今、先週末から数人のインフルエンザ(疑いを含め)の方を診た。
既感染の方周辺から次々生じた四人の発熱者のうち、お二人のテストがA型プラス、他のお二人に疑いを診断した。それぞれの方は発熱前日にだるさや喉の違和感と咳が共通してみられていた。
感染は高齢者ばかりではなく、成人も含まれている。まだ予防意識が低くワクチンが先のこの時期、意表を突く発症に戸惑いを禁じ得ない。

調べてみると東京都内419カ所のインフルエンザ定点報告機関における9月16日から9月22日の報告数が、流行開始の目安となる定点当たり平均1.0人をすでに超え、1,06人になったという報告があった。
例年より二か月早い流行の兆しであり、まさかである。

 年次別の年間感染者数のグラフ(東京都感染情報センターの資料)
定点報告1医療機関あたりの件数。
左の赤い点が今季(2019年9月中~下旬)のマーク、
右上はその部分拡大で確かに例年と異なる。

報告平均と実数から、流行といってもよい状況が窺われる。

 

流行の報道(9月30日のFNNプライムのホームページから)。
例年より二か月以上早い流行と伝えている。

現象が一過性なのか、信頼出来るトレンドなのか判然としない。だが佐賀、宮崎、東京などですでに合計5716人が届けられ、当地でも見られることから偶然ではなさそうだ。

現在、南半球は冬の終わり。まだインフルエンザの流行期に相当している。
近年ますます盛んな南北の往来が原因の一つではないかと指摘され、まさかのラグビーワールドカップの関与も云々されているようだ。
いずれにしても念のため日常のこまめな手洗い、咳エチケット、疲労回避をいっそう心がけたいところ。
このところ不足が問題のワクチン、果たして今年の備蓄は大丈夫だろうか、少々緊張が走る。

昨日はお点前 今日はゴルフ 怖い熱中症。

2019年8月4日(日曜日)

毎週土曜日午後、陶齋親子展にちなんだ呈茶を拙茶室で行っている。
昨日三回目の茶席を無事終えた。
これまで23人のお客様をお迎えし、残り3回にも予約が入っている。さして宣伝をしていないが毎回参加を頂き有り難いと思っている。

 

 

先週から小生が点前を担当し、ようやく緊張がほぐれてきた。

 

 

昨日三組五人のお客様。お抹茶をお飲み頂いた後、茶杓と薄茶器拝見の様子。

 

茶室の西の窓。

 

本日長野県は信濃ゴルフ倶楽部で5組のコンペがあった。ダブルペリア方式で争い、98の成績にも拘わらず沢山ハンディが付いて幸運にも優勝した。このところ100を切れるようになり、喜んでいる次第。

 

飯綱山が随所に顔を出す変化に富んだ美しいコースだった。

 

 

コース内の道すがら見たオオバギボウシとキキョウ。
30数年前吉川区で自生と思われる一本のキキョウを見た。
その昔妙高カントリーの路傍にも咲いていたと聞いたことがある。
自生のキキョウなどもう見ることはない、と思っていたが、
本日出合って一瞬胸が一杯になった。

現在開催中の全英オープンで若干20才の渋野日向子が昨日同組の選手を逆転し、2打差をつけて首位に立った。ワンプレーごとに拍手や称賛が贈られている。本日は最終日、果たして首位を守って優勝できるだろうか。

海外で頑張っている人は多い。
比べて何かとぎくしゃくする外交。互いの国は果たしてちゃんとしたプロフェッションが確立されているのだろうか。合意に向けてやりとりや取引の手管が仕事なのに、互いに攻撃と批難に終始するばかり。遠くの国とは蜜月、隣国とは喧嘩。こどもじみていて情け無く涙が出てくる。
うんざりするような尊大と優越の争い。少しくらい良いプレーをして若干20才の選手のように拍手称賛を受けることが出来ないものだろうか。

ところで昨日は朝から次々熱中症の患者さんが来院し点滴が必要だった。場所が間に合わず最後の方は地続きの自宅居間を使った。
屋根職人さん、トマト畑のバイトの方、疲労が続く主婦、畑と釣りが日課の方などだった。食欲減退、吐き気、頭痛、強い倦怠等が共通の症状。しかも突然ではなく、数日次第にだるくなり、もう駄目、という経過が共通していた。亜急性熱中症という概念が必要かもしれない。

「水を飲んでも肥るんです」。

2019年7月9日(火曜日)

①肥満はさまざまな点で健康を損ねる原因になる。
特に中高年で重要な課題だが、若年でも決して無視出来ない。
重篤な例で、ニュースで知ったマラソン中の芸能人の心筋梗塞や食後の突然死はいずれも著しい肥満の人だった。あるいはどうしてもコンビニを素通り出来ない超肥満の若者がトイレで突然死したケースに接したこともあった。
中高年では、ゴルフ場の昼食後、胸を押さえて真っ青になって倒れ、救急搬送された銀行員のケース、救急車の到着以前に死亡された退職直後の方、早朝の救急車に同乗し強心剤を打ちながらかろうじて病院へ到着した老人、いずれも肥満されていた。
このような最悪アクシデントは他人事ではなく、一線を越えた肥満は影響を足し算しながら身体を確実にむしばむ。

②ひごろ事業所健診の結果表を見る機会がある。
表の頭に身長体重比・BMIがあり、それだけで、続く項目にどれくらいチェックが入るか、およそ見当が付く。
BMIが25以上の人ではウエストに始まり肝機能、血糖値あるいはHbA1-c、脂質代謝の四項目にしばしばチェックが付く。高血圧も少なからずあり、目を凝らしてデータを見ていかなければならない。一方肥満の無いBMI22前後の人では、およそ最後までチェックが無い人が多く、あってもわずかでありく両者の明暗ははっきりしている。

③寿命は延伸し、2008年に始まった特定健診(メタボ健診)の意義はますます重要であり、メタボは決して死語ではない。
健診の事後指導などで、「まず運動そして食事」という見出しを目にする。しかし私は意識づけからしてまず何よりも食事だと思っている。
如何に熱心に運動をしてアウトプット(出)の増加を図っても、食事のインプット(入り)側をコントロールしない限り、代謝は改善されない。またそのことが納得されない限り、減食と体重改善は容易に実を結ばない。
さらに運動は個人の身体条件や能力によって、誰でも決まった分量を実行できるとは限らない。また運動だけで体重を減らそうとすると、体を壊すほどの量をこなさなければならず、日常としてはやはり無理がある。
一方食事は理にかない、誰にでも公平に出来、すぐにでも始めることが出来る。
食品会社の健康アピール記事は、およそ運動が強調されていて、やや辛い。
肥満者やⅡ型糖尿病の人ではまず食事。運動は身体能力に見合う取り組みにより、食事の効果を補完するものとして重要という認識で良いと思う。
これが自然な流れであり、単純にメタボ改善=運動ではない。

④さて日頃、
「食事を正すため少し加減しましょう」と言って、肥満の方に減食のニュアンスを伝えると、多くの場合、
「えっ、食事減らすんですか、私余計に食べていません」と始まり、説明が進むに従い、
「ご飯なんかこどもの茶碗一杯です」と手で茶碗の大きさが示され、往々最後に、
「私、水を飲むだけで肥る体質なんです」というホームランが飛び出す。
本当は多く食べるから、喉がかわいてよく水を飲み、食べたことを忘れるか省略して、「水をのんだだけで肥る」と仰る場合がほとんどなのだ。

⑤本日、ある患者さんが、某病院で診察を待っている間、カーテンの向こうから聞こえた話として次のような事を仰った。
そこでは肥満に関してまさに上掲のようなやり取りがされていたらしい。
そこでついに“水だけで肥る云々”のホームランが出て、医師は次ぎのように対応したという。
“えっ、本当ですか、それは非常に珍しい、本当なら凄いことです”
“丁度いま空いている病室があります。できれば直ぐに入院して調べさせてくれませんか。今からそれををご主人に電話してもらえますか”
と。
「凄い先生だなあ、と思いましたよ。大体水だけで肥るなんてのも、変な話ですよね」と、くだんの患者さんは笑いをこらえ仰った。
私自身、「水だけで肥る」に対して、“本当ならば確実にノーベル賞の研究対象になります”と言ったことが過去何度がある。
それに比べれば、先の医師は良くもリアルに話を進めたものだと感心した。
しかしこのように一種否定的な対応だけだと、さすが「水だけで云々」は仰らなくなるが、肥満是正の本番はそれから先であろう。

⑥かように減食の提案はまず必死の抵抗に出合う。
それだけ食事、なかんずく満腹あるいは肥満レベルの摂食は、その人の幸福に強く結びついていると言える。
このような場合、いくら診断基準や疾病リスクを持ち出しても、軽い脅しにしか聞こえないのではないだろうか。
だが、「先生、少し脅かしてください」
3,40年前の糖尿病指導会でたびたび行政保健婦(当時)に言われた。
脅しはともかく、疾病のメカニズムと合併症の脅威を説き、摂取カロリーの話を何度もしたが、成果は判然としなかった。
指導会の前段で保健婦さんたちの話を聴いたことがある。
だが彼女たちの体型がひと目で分かる肥満だったので、殆どの場合講話はアハハ、オホホの笑い話にしかならなかった。

⑦その後「肥満は体質」と粘る人たちに対して、私は以下のように過食と身体の限界、そして健康と幸福を話すようになった。
“食事が幸福の時間であり、少しでも多く食べたいというのはよく分かる”
“ずっとそれが続けられるなら、一番良いかもしれない”

“だが、残念ながら私たちの体には限界があり、年取るに従って一層それがはっきりしてくる。
胃腸、あるいは膵臓や肝臓、何より大事な心臓などの内臓、さらに血液や神経までがどんな量の食事にも耐えられるという訳ではない”
“あなたの内臓や血液は、
「もう少し食事を減らしてください。私辛いんです」と言って、必死に我慢していることが考えられます。
食べたいのはお口だけで、大切な体はもう勘弁して、といっているように思います。
内臓や血液は声を出せないため、黙ってあなたの食事に耐え、もしかしたら食事のたびに辛くて泣いているかもしれません。
自分の人生を支え幸福に暮らすため、これから健康は最も大事になるのではないでしょうか。
その健康を一生懸命支える内臓や血液に我慢をさせたり、泣かせていて本当に良いのでしょうか。
今まで十分に食べてきたのだから、そろそろ変えてみるのはどうでしょう。
これまであなたを支えた内蔵にありがとう、と言い、これからはそれをいたわり、大事にします、という風に考えてみましょう”

“老後は長くなりました。
しかし、我慢していた体が、ある日突然大病を起こし救急車が来る、あるいは後遺症で生活が一変することは十分に考えられます。
体に負担を強いるより、一割で良いから野菜以外の食品を全体に減らし、間食はこれまでの半分にして明日に回してみませんか”
“そもそもスーパーで余計に買わないことから始めたいですね”

“体重が減るのは足腰や心臓にも良く、動きは今より軽くなるはずです。
満腹より健康が一番と考えて、これから少し方向転換してみましょう”
「体はそのことを待っているはずです」

現場で、私はざっとこのような話をさせてもらうようになった。
私の気持ちではなく、患者さんの体の気持ちを比喩化して話しいるつもり。
時間があって一気に話すこともあれば、何度か分けて話すことや、繰り返すこともある。
このようにしてから、
最初に語気を強めて反発していた人が、最後に“ありがとうございました”、と礼を仰る人が出るようになった。
肥満は体質、と言いつつ、多くの人は出来れば減食して痩せたいと願っているのではないかと思う。
お礼を仰る人は、話の内容よりもこちらの熱意に納得されたのかもしれない。

⑧一ヶ月前、むくみがあり、会話と動きがつらい80半ばの肥満した老人に、利尿剤の注射をして減食、減塩の話をした。
本日診てみると下腿のむくみがほとんど取れ、なにより表情が豊かになり、明るい目をされていた。
6キロ減らしましたよ、とはっきりした口調でご本人が仰った。
全然元気になりました、と傍らの娘さん。
バランスよく毎食、野菜以外の一割を意識して減らせば(実際は3~5パーセント前後でも)、身長153㎝、60キロ超の体重は一ヶ月で5~6キロは問題無く減る。
なにより意識の変革が大切であり、この方は、もう一段確実に減らせると期待している。

⑩食事の課題を省いて血圧高めの人に、血糖値が高めの人に、と謳う商品を勧める広告が氾濫している。
食事をそのままにして、薬の数と量を増やすのが治療だと考えている人も少なくない。
開業を始めて来年は50年、しがない老医の限界をまことに申しわけない、と常に思っている。
ただ、食事とタバコ、それにアルコールの三点だけは、まず丁寧にお話ししなければと考える昨今なのです。

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