聴老(お年寄り&昔の話)
グループホームへ寄って。
夕方には一時雲間から陽が射したが、
現在23時を過ぎてバタバタとアラレが窓を叩き始めた。
昼の気象解説では強烈な寒波ではなさそうだが、
この先一週間はまともな陽は望めそうもない。
本日はあるグループホームへ回診に寄った。
長年みていると入居者さんの顔ぶれがゆっくり変わる。
疾病の悪化、ADLの自然低下などで入院や転所がそうさせる。
ここもついの住処ではないのだ。
本日伺うと東京から介護Iターンされて長いおじいさんと、
長年私が診て最近ここに来られた方たちが同じテーブルで待っていた。
私をみると三人そろってにこにこされた。
入居当初は戸惑っていてもいつしか穏やかな表情になっている。
そもそも女性の適応能力には偉大なものを感じる。
奉公や嫁で若いうちから遠くの見知らぬ家に入る。
戦争や疾病で夫を失えば寡婦のまま何人もの子を育てる。
認知症で独り暮らしに行き詰まるとここで知らない人たちと黙々と暮らす。
あまつさえ東京から来たおじいさんと一緒のテーブルにも座るのだ。
私などとても及びそうにない。
いつか皆さんはここを出て行かれる。
せめてそれまで精一杯させて頂きたい。
ここに居れば冬でも暖かく、介護の皆さんも一生懸命だ。
近年ややもすると終末への道のりは複雑になった。
ただ健康寿命の延伸だけが幾分でもそれらを単純化できる。
身長、万事塞翁が馬。
80代半ばのある女性がある事で通ってこられる。
パッとドアを開けサッサと入られ、跨ぐように椅子に座られる。
年令の割にとても動きがいい。
「身軽でいいですね」
「小柄だからでしょうか」
「そうかも知れませんね、親に感謝ですか」
「いえいえ親を恨みましたよ、こんなチビに生んでくれて。学校ではいつも一番びりか二番目でしたもん」
「でも今こんなに元気だから良かったじゃないですか」
「ずっとチビチビって言われ、上から見下ろされてイヤだったですよ。嫁は大きな人を選ばせました」
「そうですか、でもやはり親に感謝でしょう」
「うーん、まあねえ」
なんとかにっこりされスッと立たれた。
私も160センチあるかないかの身長、仰ることは分からなくもない。
幾つになっても親は親、子は子のようだ。
万事塞翁が馬、、、年末が近づくと何かとそんなことを思う。
めまいから一週間 木を切ったおばあさん。
めまいのため特養ホームでダウンして一週間が経った。
今ほとんど問題ないが、まだ頭のてっぺんにレコードの回転軸のようなものがかすかに回っているような感じがする。
さて本日来院されたおばあさんは90才が近い。
おぼつかない足取りで片手に杖、片手は手すりにつかまり倅(せがれ)さんが付き添われる。
もういやになっちゃった、どっこいしょっと言ってやっと体が動くんですわ、といつも嘆かれる。
そんな話の後、今日は木を切ったと仰った。
エッ、木!びっくりして聞き返した。
倅さんによれば差し渡し25㎝くらいの太さの木を本当に切ったらしい。
しかもこんな寒い日に。
最後の難しい所と枝きりは倅さんが行ったというが、驚いた。
前から落ち葉がいっぱいで、気になって、気になって。
爺ちゃん、今日は切るでね、と亡くなったおじいさんに告げて始めたという。
のこぎりを使うのは体力が要る。
往々にして途中で押すことも引くことも出来なくなる。
こんなお年よりがのこぎりとは、何よりその執念に驚かされた。
これに較べれば私の体調も日常もどれほどのものでも無いように思われた。
話を聞いた妻は、最後までつきあった倅さんも見事だと言った。
昼食に美術館で食べた果物とピックルスが付いたサーモンのホットサンドウイッチ。
一般には4切れですが、運動不足のため2切れ、700円にしてもらっています。
ポットの紅茶また珈琲付きです。
兄は上手に馬を扱った。
午後から次第に晴れた一日、但し気温は上がらず寒かった。
そんな日の夕刻受診されたおばあさんに生まれ育った場所を尋ねると、以下のような話になった。
自分は近隣の山奥で育った。
戦争が始まると村から働きざかりの男の姿が消えてしまった。
その村で自分の兄は体が小さかったためか兵役を免除されていた。
小柄だったが兄は馬を扱うのが大変上手だった。
家の馬だけでなく村のどんな暴れ馬もうまく馴らした。
ある日、よその馬が荷車をつけたまま土手から落ちると、飛び出して逃げた。
大声で人が呼びに来て兄と見に行った。
巡査まで来ていた人垣のなかで馬はいななき跳ねていた。
しかし兄を見ると急に静かになり、兄はほおずりをした。
その時の馬の目は真っ赤で、自分には泣いているように見えた。
とても良い話でもっとお聞きしたかったのですが、順番のためここで終わりました。
この方は大正15年生まれ、お年寄り達はご苦労されている分だけ本当に色々な話をお持ちです。
午後遅くの爽やかな空にヒツジやイワシ、ジンベイザメまでいました。
気温が下がったため夜になって居間にストーブを出しました。
順調な作物 頂いたさつまいも。
8月末以来、さほどの残暑もなく9月も半ばとなった。
2012年の9月17日、当地上越市大潟区の気温が37,6℃となり、当日の日本最高気温だった。
本当かなと思うほどの暑さだが、今のところ秋はある種順調に推移して涼しい。
患者さんたちが盛んに行っている畑も例年になく好調な様子。
種蒔きした大根や白菜が揃って良く育ち、本日頂いたさつまいもも立派だった。
煮たものなどお菓子の様に美味しいことだろう。
大きいのと小いもが分けてある。
ほかに大根のすぐり菜を頂いたが、酒粕の味噌汁に散らすととても美味しい。
色々な方に色々と作物を頂く。
年令や具合に応じて様々に畑をされる皆様。
何もかも忘れられて楽しい、と異口同音に仰る。
いつも本当にごちそうさまです。
立派な絵を描くお年寄りの最も好きなのは料理。
一日中雨が降って梅雨そのものという日だった。
そんな日ぽつん、ぽつんと15名様のお客様がお見えになった。
昼休み、熱心に絵画をご覧になった若い姉妹にお会いし、要所を説明させていただいた。
また、「雨の日の庭もいいね」という若いカップルさんのお声も耳にしたが、私もそう思う。
そういえば以前「雨の日のカフェで蓄音機を聴きたい」とお声を聞いたこともある。
災害でなければ雨降りには詩情がある。
だが遠くだと思っていた台風が近づく気配で心配される。
さて昨日はお年寄りのタブレットでしたが、今日は墨絵です。
上「椿」および下「牡丹」。
失礼ながらフラッシュ無しで撮らせて頂き、光量不足で申し分けありません。
驚かされるのは構図の良さと観察眼、筆力と上品さ、なにより87才の年令だった。
三年前の秋~冬は脱水症、感染症、たび重なる転倒、激しい多発関節痛で離床も出来ず泣いてばかりの毎日。
息子さんの支援、介護保険の申請、月一度の骨粗鬆症の注射などの結果、昨冬から徐々に改善に向かった。
すると、待っていたようにかって親しんだ絵筆を執るようになられた。
一時は認知症の出現も見たが、今はたまの湿布以外に薬も要らなくなったった。
大きな公募展で立派な賞を獲るられるが、一番好きなのは意外にも「料理」と仰った。
お年寄りのタブレット 梅雨の花、合歓(ねむ)。
過日お会いした80才を越えられている女性は、タブレットの便利さと面白さを熱心に話された。
分からないことはググればすぐに出るし、その中の分からない言葉はまたググればいい。
文字や絵は大きくなり辞書も要らず、自分に出来るゲームも楽しい、と仰った。
タブレットを購入したばかりのころ、介護していた夫の容態が悪化した。
「ここで一緒に座ってくれ」、ある日夫は言った。
これまでそんなことをしたことがなかったので、恥ずかしかった。
だがそばに座ると幸せな気持ちがしたので、傍らのタブレットで自分たちを撮ろうと思った。
ところが画面で自分たちを見ながら写す方法が分からず、後ろ向きにしたまま何枚も撮った。
時間はかかったが良く撮れたものがあった。
その夜中、夫は急変して亡くなった。
何かが知らせて一緒に座れと言ったのだろうか、無理して何枚も写真を撮ったのが悪かったのか、色々考えた。
しかし、夫と撮った最後の写真は大切な思い出になった。
上越市大潟区の近辺は合歓が多く、いま盛んに咲いています。
見るからにひ弱な花は雨に打たれてすぐに傷みます。一方ご覧の房状の丸い玉は全てつぼみです。
降られて傷み、傷んでは咲き、合歓は梅雨の日を精一杯明るく振る舞っています。
次回もお年寄りのことを書かせて頂ければと思います。
春の夜のクリスマスローズ 「〝年はひとが取るものだ〟と思っていました」は名言。
樹下美術館の庭で昨年秋にヒメシャラの若い株立ちが枯れた。
本日昼、それを掘り出して買ってきた2メートル少々のモミジを植えた。
姿が良くても難しい木があり、浜風と砂地の樹下美術館は活着するまで悩ましい。
夕刻の仕事後、まだ空が明るいので最後になったクリスマスローズを5株植えた。
ずっと沈丁花が香っていて、どういうわけか終わる頃一匹の雨蛙が鳴いた。
全てが終わえると随分東へ寄った月がきれいに昇っていた。
以下連日のクリスマスローズで申し分けありません。
庭の灯でクリスマスローズを撮した。
フラッシュ無しの手持でブレましたが、夜の花は昔の洋画の女優さんのように魅力的だった。
さて比較的お元気な患者さん達の畑仕事が一斉に始った。
本日足腰の痛みを訴えた昭和11年生まれの女の方がこう仰った。
「〝年はひとが取るもんだ〟と思っていました」
立派な名言である。
私はそれでいいと思う、どこかでず-とそう思うのはやむを得ない。
たとえ年取ったな、と感じても「年はひとが取るもの」で生きて行くような気がする。
ただし「病気はひとがなるものだ」と考えるのはいけませんね。
強風の日の虹 普通は簡単なようで難しくまた眩しい。
本日当地一帯は一日中風に見舞われた。
風は強く、上越では最大25メートル(恐らく沿岸部)に達した模様。
午後は特別養護老人ホーム・しおさいの里に出務したが、入所者ご本人ご家族へのスタッフの対応は心こもり、いつも敬服を禁じ得ない。
また管理栄養士さんもこまやかな対応をされるので安心だ。
そんな日の施設からの帰りに虹が出たので海へ寄った。
夕刻に近づくにつれて虹は高くかかる。午後3時前の虹は随分低い位置に出ていた。
さておばあちゃん思いの孫さんがいる。高校時代はバスケットで部で頑張り、卒業して社会人になった。
家に帰ると「おばあちゃん、今日はどうだった」と昔から毎日尋ねるという。
働き者で男前なので友達という彼女が出来て、その娘さんはまた勉強家で美人。
家で一緒にごはんを食べるようになったが、
娘さんは自分の話をする一方、おばあちゃんの話も良く聞く。
「実の娘より可愛い」とおばあちゃんは嬉しそうに言う。
普通というのは簡単なようで難しくまた眩しい。
たとえ一人の希な案件であろうとも。
以前ある老人から、若い時に身売りを強いられた話を聞いた。蒲原地方で育った家にどんな事情があったのか、親が自分を売った。女衒ともう一人の娘と一緒だった。大きな川の手前の宿に泊まった夜、この川を渡ったらもう駄目だと聞いて逃げる決心をした。相手の娘さんに話したが、行かないと言ったので一人で逃げた。
農家のふるさとは駄目、とにかく海へ逃げようと思い、田を越え山を越えた。漁師の村へ着くと物乞いのようにしながら漁業の手伝いをした。本当に色々なことがあった末、今の土地で嫁になった。
この方は晩年に認知症が現れ、昼寝の後などに火事だ空襲だ、と言って家を飛び出すことがあった。そのことで往診に行っ日、落ち着くと以上の昔話をされた。私が知る限り、この方の強さと子や孫へのいたわりはとても印象的だった。
飛び出しの異常行動は認知症だけではなく、かっての辛い経験の表出ではないかと思った。
ところで本日後藤さんの死亡が報じられている。
国はある意味もう一人の親である。
それが衆目のなかで、とうとう後藤さんを守れなかった。
たった一人の特殊な案件が全てを物語ることがある。
勇敢で善良そうな方が失われ、残念かつ先の吉凶が案じられる。
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午後高田へ行った妻は大潟の方が降っていると言った。
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