食・飲・茶・器
人の顔を思い出すと。
昼過ぎまで陽が射し蒸し暑ささえあった。それが間もなく雨に変わり、在宅訪問は一時土砂降りとなった。その後もザーザーやシトシトをまじえながら夜に到っている。
本日深夜一時過ぎ、枕元のケータイが鳴った。高齢者施設で看取りが近づいている方が亡くなった知らせだった。着替えて出かけ確認を行い、ご家族に説明し診断書を書いた。
多くの看取りは深夜か早朝で暗い時間が多い。灯りが付いているだけで車がほとんどいない道路を行って帰ってくるが、とても寂しい、
一月前には107才の方がやはり深夜に亡くなられ、あるいはつい最近仕事でお世話になった働き盛りの方が突然死された。
そんな昨夜に大学時代の同級生からメールが入り、仲間二人の死が知らされた。
このような事が続くと広かった世界がどんどん狭く感じられ、代って亡くなった人の顔がポッポッと浮かんでは消える。
およそその方たちの顔は笑みを浮かべ、何か話したり訴える表情で現れる。エヘヘと言いながら、または背をを丸くしながら小声で、あるいは高らかな笑いで、または甘くニッコリ、さらには無愛想な返事の後のしたり顔などなど様々だ。
すると自分はどんな顔で人の脳裡に現れるのかが気になってくる。その前に果たして浮かんでもらえるかが肝心だろう。
存否にかかわらず他者を思い浮かべる時、多くが笑顔であればその人も自分も幸せなのかもしれない。
少し時間が経ってしまった
今夜の細麺天玉そば。
サツマイモと豚こま
とレンコンの煮物。
テレビで見て作ったらしい。
お陰様でゴルフで優勝した 弟との時間。
本日日曜日、小雨がちの空の下、サンシャインゴルフクラブで同業14人による今年最後のゴルフがあり、なんと優勝した。簡単な表彰式で最後に優勝者はスピーチをしなければならない。
前回優勝はいつだったか思い出せない。成績がよかったのは皆さま、とりわけ同組の3人のパートナーに恵まれたお陰。来年も仲間に入れてくださいと述べた。実はお陰はほかにも沢山あり、年取って一番前のティーから打てること、ハンディキャップが26もあること、当然ラッキーもある。
とにかく良い事があった時の挨拶は嬉しさを噛みしめながら、あるだけのお陰を挙げるのがマナーだと長年のゴルフから学んだ。ついでに挙げると、普段誘って頂く友人知人のお陰は大切で最後は親のお陰も足さなければならないだろう。
本日参加の皆さま有り難うございました。元気に過ごし是非来年も続けたい。
本日夕刻に南三陸町の弟夫婦が姉妹二人を連れて来て、家で食事を一緒した。
妻手作りのイクラ。牧村の親族の新米に掛けてもフランスパンに載せても美味しかった。
久し振りの故郷の弟は文化の話をしたいと言った。
日本の自然と太古の地質、多神教と一神教と文化、日本美術と西洋美術の違いの根幹、自然と神、心の本質、本音と建て前、他人の大切さ、自問の大切さ、やれやれという言葉、旨いもの不味いもの、庶民の拠り所と救い、大規模酪農の脆弱性、明治人の立派さetc、もう何から何まで話をした。
私が世の中に不味いものなど無くなったというと、いやいや不味いものはいくらでもある、という1点だけは意見が合わなかった。弟の食へのこだわりが、幼少から今に到るまで変わらずにあるのは全く驚くべきことだ。
ゴルフの後に残っていた足腰の痛みが弟と話をしたらすっかり消えていた。
二人の姪は文字通り匂うように美しく、弟は心配だろう。
良い一日だった。
今年の樹下美術館の柿。
樹下美術館の敷地で採れる果物が柿です。まだ幼い木ですが昨年初めて10数個収穫しました。今年は夏まで20個ばかりあったのですが、、暑い盛りにポトリポトリと実が落ち、8個が色づくまで残りました。
10月5日、8個のうちの2個。
10月9日、1個が鳥に食べられた。
鳥に食べられないうちにと思い、まず2個を獲り、数日家で陽向に起きました。
本日その2個を食べました。
パリパリとした歯ごたえのある甘柿。美味しく食べたが昨年より甘みが少なく感じた。
長く続いた異常な高温は柿にも影響したのでしょうか。残った実は今後昼食替わりにサラダとともに美術館で食べようと思います。
先週末の上京、一日目。
10月1日(日)に、70年も前、我が家でピアノを弾いた人が指揮をするオーケストラを聴きに、前日9月30日(土)午後に上京した。上京したその晩身内の二人が食事に誘ってくれ楽しい週末一日目を過ごした。
芝公園近くのホテルに泊まった。本が沢山ある静かな読書室があるホテルだった。夕食までの時間をいつものように歩いた。通りを真っ直ぐ北に向かうと日比谷通り。そこを左折すると間もなく増上寺に着く。同寺は二回目で前回は3年前だったと思う。
日比谷通り沿いの公園内を歩いて、
増上寺へ。赤い山門が立派。
花頭窓も立派。
東京はよく飛行機が飛ぶので羨ましい。しかもかなり大きく機影が見える。
境内を歩いているとぼーん!と大きな音で鐘が鳴った。夕刻5時を告げる鐘だった。
振幅を大きくしながら4,5回鐘撞き棒を振り、最後は最も大きく振り慣性で突いた。今まで聞いたことも無い低く太く心身深く響く音だった。
中高で同級だったU君は教育者であり僧でもあった。かって氏は増上寺本堂の上階にある道場で修行をしたと聞いた。道場はそれはそれは広大だったという。鐘を撞いた若い僧を見てU君も撞いたのだろうかと思った。夕食は6時からだったのでお寺を辞した。
食事場所は港区内のイタリアン・フレンチの店だった。新鮮な食材の美味しい料理を少しずつ食べ最後にエスプレッソを飲んだ。アルコールフリーで食べたが、途中皆にに紅茶が振る舞われた。
紅茶の振る舞いは初めてだった。驚いた事にごく細く長い柄のついたグラスが用意され、それに注がれる。注ぎ終わるとソムリエ?はグラスを斜めにして細い柄を親指と人差し指でクルクル回した。
何故そうするのか訊ねたところ、熱さを整えるとともに紅茶がグラスの上部まで浸り、香りが広がるようにしているという。茶道でも美味しくお茶を点てるために途中日常から離れた手順をいくつか踏むが、紅茶にも独特な方法があるとは。
グラスに口と鼻をつけて味わってみると、好天の日の草秋の香りが僅かにして、なぜか遠い異国の高原に漂う蒸気を感じた。海外をほとんど知らない私には一瞬旅情がよぎる時間だった。茶葉はダージリンと聞いた。
料理ごとにナイフ、フォークが替えられたので迷いなく安心して食べられた。
年末に年一度の食事を長年一緒にしてきた学友夫婦と食事する。ノンアルビールやジンジャーばかりでは無く「紅茶」を食事の友にしてみたいし、温かくて美味しいウーロン茶もためしてみたいところ。
次回は翌日曜日に訪ねた六義園と護国寺、そしてお目当ての音楽会を記したいと思います。
小林古径記念美術館の齋藤三郎茶会。
上越市立小林古径記念美術館で生誕100年「齋藤三郎展」が7月15日~10月9日の期間で開催されている。当県陶芸家を先駆けた人の展覧会だけあって好評を博している。
長い会期の後半に入った昨日日曜日、齋藤三郎展にちなんで同美術館の小林古径画室において裏千家茶道の有沢宗香先生を席主として齋藤三郎茶会が催された。
いくぶん涼しくなりかけたのもつかの間、当日は暑さがぶり返した。午前中三席の会、10時30分からのお茶に上がらせてもらった。本席の床は淡々齋筆円相に風雲香が添えられている。小さめの円相は月をも思わせた。
恥ずかしながら正客席に押し出され、宗香先生が目の前。勿体なくも親しく言葉を交わして下さり、暑さを凌ぐお道具に囲まれ薄茶を楽しむことが出来た。
お菓子「秋の月」は大杉屋さんのお製。生前齋藤三郎が同店のマッチ箱向けにデザインしたラベルが一つ一つ菓子に敷かれている。私のは茶杓と茶碗が描かれていた。お菓子の味、色とも大変良く、齋藤三郎ゆかりのラベルが手に乗るという趣向に心和んだ。
膝前のたばこ盆の火入れは齋藤さんの作品(矢印)、染め付けの竹林文様が涼しい。
齋藤さんのかわくじらの水指と月と秋草の「武蔵野」茶碗。その左奥に立つ富士釜。お道具を囲む風炉先屏風は「雲月」とお聞きした。屏風の細かな格子は雲、金色の四角い囲みが月というわけだ。火がある点前座は風通う壮大なジオラマを思わせ、暑さ去らない当日に打ってつけの演出だと深く感銘を覚えた。
落ち着いたお点前によって点てられたお茶はまことに滑らかで良く香り、あたかも挽き立てのように新鮮な味がした。
席を終えて外に出ると堀の蓮はおおかた花が終わり青々とした葉に埋め尽くされている。すぐそこにお彼岸と仲秋の名月が待っている。口中にまだ茶の香りが残っていて、ああそれでも秋に向かっているんだと気がついた。
有沢宗香先生、楽しく美味しいお茶を有り難うございました。社中の皆さまお疲れ様でした。お写真をお貸し下さった社中の方、有り難うございました。とても良いお茶席でした。
「海風」というビジネスネーム。
今年2月から木曜日を休診日にさせてもらっている。だが春から色々と企画展が連続し、8月中ばまで準備や告知、報告などで休みといえども忙しかった。それが本日は休日らしい日になった。
午前中パガニーニの伝記などを読んだり今になって吉村妃鞠のYouTubeを観たりして過ごした。午後は朝昼兼用食を美術館に持参し、田んぼの見えるベンチで食べた。
8月以後、連日危険で災害的な暑さが続いたのが昨日の雨が上がると本日は30度を下回る涼しさになった。久し振りにベンチで風に吹かれ田を眺め本を読み食事した。
カフェではA氏が昭和時代にヨットを一緒にしたB氏と連客されていた。久し振りのB氏は定年になりましたと言った。
かって氏ら若く元気なクルーとともに佐渡や能登のレースなどに参加した日が昨日のように思い出される。そして「早いですね」と二人の口が揃った。
カフェの後、篠崎展を観るというので案内した。月明かりの美しい色彩と独特の雲と海が描かれる幾つかの絵、そして絵本「青いナムジル」の馬頭琴の挿絵などを一緒に観て回った。
自分なりのことだが、篠崎正喜さんの作品の話をするのは楽しい。ほぼ半分を観終えて「海風」の前に来ると、B氏はあっ、と小さな声を出し、「俺と同じ名前だ」と言った。
「俺も会社で海風という名前だった」と仰る。
B氏が海風?あまりに唐突で何のことだか分からなかった。
聞けば会社は社長の方針で、社内では本名を使わず各自好きな名を名乗ることになっていたという。それで氏はヨットに乗り海に親しんでいたので「海風(かいふう)涼(すずし)」にしたんだと話した。
社長が先進の人で、会社では個人のしがらみを捨て新たに社風のもとで歩もうとの意図から皆がそうしていたという。
ビジネスネームというものがあるらしいと耳にしたことはあるが、エンジンや機械に詳しいB氏の会社がそうで、当人は「海風涼」だったとは。
本当にびっくりして国家公務員だったA氏と私は目を丸くして、もともと目の丸いB氏をまじまじと見た。
ああ海が好きでヨットを愛したB氏らしい素敵な名前だ、そして何て良い会社なのだろうと思った。
本日はその後ゴルフの練習に行きました。
●10月12日(木曜日)15時から篠崎正喜さんの「生成AIと美術」のギャラリートークを致します。35席ほどの予定で、入場は無料です。
美術の最も新しく切実なテーマではないでしょうか。お暇をみておいで下されば有り難く思います。
二つのポスター 熱心な親子さん コーナーの工夫 大洞原の野菜 夕食。
本日は篠崎正喜展に展示中のポスター2点のご紹介からです。
篠崎氏が手がけた劇団美術の中から劇団四季公演「ガンバの大冒険」から1点、劇団七曜日(コント赤信号渡辺正行主宰)ポスター原画の2点の掲載です。
「ガンバの大冒険」ポスター原画。
劇団七曜日公演ポスター
いずれも着目意図を熟慮したうえそれに沿ったデザインと色彩配分が行われ美しく仕上げられています。
さて次は過日触れました展示場内三カ所のコーナーの工夫の実際です。
真ん中の台を斜めに。
一般に四角い会場の展示ではその隅(コーナー)は狭く、両脇の壁に挟まれやや暗く空疎な場所の印象があり、常に使いずらさがありました。この度はそこへ斜めに展示台を設置しました所、作品は中央を向き、1点に立ったままで両脇を入れて3作品を同時に観ることが出来るような効果も生まれました。
奥まった場所柄、一種特別な場所のイメージもあり、良い試みではなかったかと自画自賛している次第です。
昼に寄ると3人のグループと4人のグループの親子さんがお見えでした。
一点一点良く観て写真を撮ったり、とても熱心な三人姉妹さんでした。宿題だったのかもしれません。
もと大洞原に関係された方から頂いたトウモロコシとトマト。スタッフも頂戴しました。高原の夏野菜は素晴らしいです。
若い二人と食事
連日厳し過ぎる暑さで、人が大変なら庭の草花もおよそぐったり。アジサイはしなしなと全体の葉をぶら下げ、クリスマスローズは大手を広げて仰向けになろうとする。それで連日念入りな水まきが欠かせなくなった。
本日も行ったが、最後に井戸水の蛇口で顔と手を洗うと水がとても冷たかった。
そんな日ごろ、東京から甥の長男が婚約者と二人で来て今晩夕食を一緒した。二人とも見た目良く静かで楽しい2時間のひとときだった。
二ケ月振りの外食は以下のようでした。
男二人が飲んだレモネード(ガッゾーサ)。女性二人はほどほどのアルコール。
お同じソニーでも私よりずっと高級なカメラを持っている。今どきの若者らしくレンタルだという。彼らのお金の使い方は賢く、最近のアルコール事情にソバーキュリアスというクールなトレンドがあるらしい。
アーモンドが混じるねじれパスタ。
歯ごたえが癖になりそうだった。
島豚(沖縄豚)のカポナータ。
妻はラタトゥイユとの
違いを訊ねていた。
最後はアイスクリームと
熱いキンボのエスプレッソ。
テーブルの
ギンガムチェックが嬉しい。
写真はありませんが最初の方に出た地茄子のチーズ焼きも美味しかった(茄子料理はみな美味しいが特に)。
同君との食事は昨年サブリーユで、今年はラ・ペントラッチャでした。
イタリアの事はテレビ「小さな村の物語 イタリア編」でよく見る。電線が無く坂道の多い白壁の風景は美しく、室内は私達の暮らしよりずっと物が少ないのにおしゃれで豊かに見える。いつも何故だろうと考えてしまう。
そしてなにがしか悩みを共にしながらも厚く和やかな家庭、、、。帰郷して50年、一度も海外を知らない私にとってイタリアは(ヨーロッパはいずこも)夢のまた夢の場所。
同店オーナーは最近シチリアに行ったばかりと仰った。羨ましい限りだがカンツォーネ流れる広い店内で彼の国へ行ったような気分にさせてもらい、満足満足だった。
明日は朝食を抜きお茶だけ、昼は野菜サラダ二人分で間に合わせることにした。
宿題をしに木村茶道美術を再訪 茶のあとはいととんぼ様のお見送り。
去る7月24日の当欄で柏崎市の木村茶道美術館を訪ねた時の事を書かせて頂いた。同美術館は撮影可という温かな対応をされているが、記事では本席の掛け軸の写真を取り忘れていた。
さらに江戸千家茶道の創始者川上不白作の茶杓銘「西王母」の解釈よび如心斎筆による三代宗哲の茶器「詩中次(しなかつぎ)」の詩文の意味を尋ねる事も失念していた。
そこで本日日曜日、上記三つの失念を埋める宿題をすべく同美術館を楽しく再訪した。解説された学芸の方は前回と別の人で、迂闊な私の質問に親しく答えて下さった。
宿題の第一、本席の掛け軸写真は以下です。前回作者を誤って馬遠(ばえん)としましたのを馬逵(ばき)に訂正させて頂きましたs。大変申し分けありませんでした。
「雪景山水」
極めて希な作品のため入手に際し
東京国立博物館で鑑定されている。
絵唐津壺の花入は前回と同じだったが花が替わっていた。
手前から初雪草、ヒオウギ、シマアシ。
毎回スタッフさん達の持ち寄りだという。
いつも美しく新鮮。
本日は名古屋の鳴海織部のお茶碗で頂いた。
以下は前回出された五代楽家、宗入作の黒楽馬盥(ばだらい)茶碗。本日はちゃんと撮りました。
以下は宿題の茶器と茶杓。
手前の茶器は詩文が書かれている。器は三代宗哲の作。文は表千家中興の祖、七代家元如心斎(じょしんさい)の筆(書)。
向こうの茶杓「西王母」は椿であり、季節が合わない。そのことをお訊ねすると、敢えて用いたのは、断捨離をされるお茶人が時にお道具を美術館に寄付をされる。本茶杓も篤志家からのもので、ご好意に応えてお出ししたということだった。同美術館の裾野は豊かで広いのだ。
器の詩文は100則の代表的な禅問答によって教義を示す禅の教科書、碧巌録の一節。説明をお聞きして帰宅後調べてみたところ第17則「坐久成労」ではと推量してみた。
座禅の本質を訊ねられた僧香林が「長く座ったのでくたびれたわい」と応じた公案に相当しているかもしれない。
表に出て石垣に沿って歩くと黒く小さな影が横切った。イトトンボだった。
以下は帰路です。
本日のお茶で一句
茶のあとはいととんぼ様のお見送り
暑い、 珍しくブログを三日続けた。
木村茶道美術館の涼風。
過日の暑い日柏崎市の木村茶道美術館を訪ねた。
暑さの中の庭。かすかな流れの音を聞き赤欄干の橋に癒やされる。
庭を上り受付を済ませ待合で竹のベンチに腰掛けて順番を待つ。
待合の床に掛かった大津絵「雷と太鼓」の図。江戸時代初め頃から始まった滋賀県大津で土産、お守りなどとして売られた署名無き絵図。大きな目小さな鼻、あどけない手つきなど雷は可愛いく描かれている。
特に古いものは味い深い民藝として後世に於いても人気を拍した。上掲は雷を盛大に鳴らしていた所、勢いあまって海中に雷太鼓を落としてしまい慌てて吊り上げようとしている図。人気のモチーフの一つだというがユーモラスな図柄には油断を戒める意味もあったらしい。
さて本席です。
写真はありませんが、床の掛け軸は本邦では極めて希とされる南宗の画家馬逵(ばき)の作と伝わる「雪景山水」。遠くの山と近景の人物の間に精緻で壮大な気宇が漂うのを感じさせる。茶席では夏にあえて雪をテーマとした道具を用い、暑さを凌ぐ事を趣向の一つとすることがある。
床の花は矢筈薄(ヤハズススキ)、白桔梗、秋海棠(シュウカイドウ)。花入(はないれ:花器)は桃山時代の絵唐津壺。壺は算盤(そろばん)球の形で、福をもたらすと伝わる蝙蝠(コウモリ)が鉄絵で二羽描かれている。唐津らしく地の色と蝙蝠の地味さ加減が絶妙で、フォルムの一種鋭さにより涼しさが伝わり名品だと思った。ちなみに蝙蝠は夏の季語。
お茶に先立って頂いたお菓子。
取り回されて一つだけ残った最上屋製の水菓子。器は二重蓮弁の形状をした中国明時代の古染め付け。弁を数えたところ16あった。
私に出されたお茶の茶碗は黒楽で五代宗入作「馬盥(ばだらい)」だった。浅く広い黒楽茶碗の見込み(底の部分)に緩やかに渦が施され、服するにしたがい緑のお茶がゆっくり渦巻きながら消えて行く様を目にした。
以下は風炉釜(ふろかま)。
亡き柏崎市の鋳物師(いものし)原益夫作の南蛮船を形取った風炉に帆に見立てた釜が掛かる。釜の両脇の鐶付き(かんつき:窯を持ち上げるための丸い金属輪を通す部分)は貝の形だった。
絵図を含め貴重な茶道具を終始分かりやすく説明して下さった学芸の方と、道具類を拝見に出して去られるお点前をされた方。
並べられたお道具の一部。茶を飲んだ黒楽茶碗は真ん中にある。手前は三代宗哲作「詩中次」の薄茶器(薄茶を入れる器)。碧巌録の禅詩がしたためられていたようだが内容を聞きのがした。期間中に是非とも再訪してお聞きしてみたい。茶杓は川上不白作「西王母」。西王母は椿であり、中国では美しい桃あるいは遠方の仙女であり、これも云われを逃してしまったので再訪は必至となった。
いずれにしても雷、雪景、蝙蝠、蓮、海(船、貝)、黒楽の平茶碗、、、。一貫した夏の涼さに繋がる趣向に感心し美味しい茶を飲み、外へ出ると暑さが和らぐのを感じた。
木村茶道美術館では第一級の茶道具が出され、手に取りそれでお茶まで飲ませてくれる。特別な人が特別な茶席でしか眼に出来そうもないお道具類。私達一般人がこれらに囲まれながらお茶を飲める場所と機会は滅多にあるものではない。
紅葉の名所としても親しまれているが、茶道をしない人も一度でいいから茶室に上がり、待合に腰掛け、ふんふんと説明を聴き、美味しいお茶を飲まれることを心からお勧めしたい。美術館も喜んで歓迎してくれると思う。
越後上布の商人たちが各地に出かけ吸収し広めた柏崎市の様々な文化。なかでも茶道文化は優れた茶人や鋳物師、塗り師など広い裾野を残した。それらを総合して伝え続ける木村茶道美術館の存在は日本広しといえども希有なことであろう。
施設を維持される同市と支える市民の皆さまに深い畏敬を覚え、それが近くにあることがとても嬉しい。
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