食・飲・茶・器
あっという間の半日 宇喜世の茶会と戸野目の保阪邸
昨日は二日続きの穏やかな一日。昼過ぎに髙田仲町・宇喜世(うきよ)であった越後城下町髙田茶会に行った。大先輩の薄茶席と先輩奥様の濃茶席に座らせていただいた。
薄茶席の待合、本席とも掛け物は良寛の賛だった。懐かしいお茶碗は相馬御風が筆を執った若き日の荒川豊蔵の志野。水指の浜田庄司は薄青色を漂わせ昨日の空を写す趣だった。
お濃茶席の花入れは金森宗和の竹一重切で重厚。オトコヨウゾメの照り葉とつつましやかな白椿の蕾が生けられ、秋冬の移ろいを現していた。オトコヨウゾメは樹下美術館隣接の庭にもあり、嬉しかった。
宇喜世待合の丸枠飾り障子
待合別室で長瀬幸夫氏による齋藤三郎作品のコレクションが展示されていた。代表作が網羅され長瀬氏にもお会いでき、熱意に感銘を受けた。和ガラスのコレクション図録も見たが、華やかさと親しさに目を奪われた。
秋の午後は早い。公開中の戸野目の旧保阪邸も急いでお訪ねした。観光バスが来ていて大変賑わっていた。頸城一の大地主の建物と庭は壮大で豪奢、時代の意気と文化が濃縮されていた。音楽が流れ、コーヒー、御抹茶のもてなしもあった。
旧保阪邸:怡顔亭(いがんてい)の和風シャンデリア
今秋最後の週末の半日は濃厚で、あっという間に過ぎた。
赤いバイク 映画「サイドウェイ(Sideways)」
通りかかった小学校時代の同級生の家の前に小さな赤いバイク。
イチョウの落葉と似合っていた。
映画「サイドウェイ(Sideways)」の日本版予告
先日一緒に食事をした旧友から是非観てといってビデオ「サイドウェイ:Sideways」が届いていた。我が家にはデッキがないので午後から電気スーパーで鑑賞用を一台買った。一万円でおつりが来た。
映画は二年前に離婚しワインに目がない男と、一週間後に結婚を控えながらまだ女に目がない男がカリフォルニアを旅する物語。
悲しさと滑稽さを織り交ぜて希望の味を残して終わった。2004年制作の映画はアカデミー脚本賞とゴールデングローブ賞を受賞して非常に評判だったという。
有名な映画のようだが私はもちろん初めて。ワイン好きの特別な幸福を羨ましく思ったが、あんなに飲んで体をこわさないか心配にもなった。
ところで父は昭和30年前後から葡萄作りに夢中になった。巨峰と沢山粒がなるデラウエア(だったと思う)を育てた。特に巨峰には傍目にも痛々しいほど心身を費やしていた。
剪定、肥やし作り、施肥、水遣り、受粉、袋掛け、、、。長靴を履き小さな畑で葡萄と格闘する父は別人だった。
まだ果物店になかった巨峰を数粒から真剣に収穫し、糖度を測り計量していた。大きな房が獲れると友人たちの家を回って配った。
もう一つの葡萄はジュースにされたが、冬になるとワイン風になった。
TASTING
昨日のノートに旧友がワインを選んだことを書いた。私などには遠い領域だが、彼のワイン選びは現実的な幸不幸の問題に見える。
このたびの食事の10日ほど前、「店を決めたからホームページからメニューを見て選んでみて」とメールが来ていた。コースではなくアラカルトにしようというこだわりも伝えられた。
私はホームページを見て牡蛎は必須、肉料理を一品と返事した。昨今肉がきつく感じられるが、ワインは自分のおごりにしたいという、彼の好みを考えてそうした。
そもそも彼の人にあって年に一回の食事はただ一点、いかにワインを選びメインに合わせるかにあろう。予め私たちに何が食べたいのかを聞いた時点で、あれかこれか、幸福な思案がはじまるにちがいない。
さて当日自分にはほぼ決めていたワインがあったという。ソムリエとの前段はそれがどんな状態で店にあるかの確認だったのか。幾分若いソムリエは一度下がると戻って来て、またひそひそと始まるのだった。
私たちはメインを肉でと伝えていたが、何の肉か決まっていなかった。メニューを見ながら5人そろって鴨を選び彼も同意した。ワイン選びは流動する現場のスリルも楽しむように写った。コースではなく、アラカルトを提案していたのもうなずける。
鴨ということでソムリエとの間になにやら事案が生じている模様だった。「もうちょっと待ってて、今決まるから」、という彼は幾分興奮していた。ソムリエの助言を容れて冒険をするらしい。
幸福のワインは決まった。ある種地味ながら穏やかな存在感を漂わすワインが登場した。しかし雑談と食前酒で出来上がりそうな私たちの無知は、もっぱら鴨や佐渡のいちじくなどを賞賛するのだった。
さて翌日家に帰ると以下のメールが入っていた。珍しく長文だった。昨日のワインC・C・Bの感想が述べられ、何ともいえない思いがありました、とあった。彼自身ほろ苦かった様子がうかがえる。
“開高健が良い酒ほど水っぽくなっていく事を書いています”と書かれ、以下のように続いた。
●当日、ソムリエの意見を取り入れて決めました。気に入った映画「サイドウェイ」の思いがあったから、一度飲んでみたかった。
サイドウェイのDVD送ります、奥さんと観てください。
映画の中で恋人になる女性のこんな台詞があります。
“ ワインは日毎に熟成して複雑になっていく
ピークを迎える日まで
ピークを境にワインはゆっくり坂を下り始める
そんな味わいも捨てがたいわ”
素敵なヒロインの言葉でした。 でも、鴨にはC・M・R(彼が想定して臨んだワイン)がよかったかな。
人それぞれ向きは違う。彼の味への探求は続く。若い時に様々な香辛料を蒐集し自分でカレーを作っていた。何人かで食事をすれば、お互い違うものを頼もうや、と言う。出てくる他人の料理を「ちょっと」と言ってはつまむのだった。ワインも長い探求の延長線上にあるのだろう。
年と共に夢見る人の向きはますます貴重になる。
旧友と食べ、そして観た週末
昨日午後上京し二組の同級生夫婦と会って食事をし、翌日は11時からゴヤ展を見た。学生時代と医局時代をともにし、毎年一度こんなことをするようになって10数年が経った。
食事をした店でアンドリュー・ワイエスの絵に出会うとは(ワイエスの画集は樹下美術館のカフェに出ています)。
おごると言ってkが10分近くソムリエとやりとりしてワインを選んだ。その味わいは初冬の蘆原の香りがする詩的な一本だった。
厚岸(あっけし)の牡蛎は抜群で、肉や果物もよく選ばれていた。親の介護、自分たちの健康、昔話などをぐるぐる回しあい、3時間はやはりあっという間だった。
ウエイティングルームの本:死ぬ前に飲むべき1001のワイン。
「ゴヤ 光と影」展 チケット
ゴヤ(フランシスコ・デ・ゴヤ)展は賑わった。お目当てはカラフルな着衣のマハだが、素描と版画の小品によるモノクロがむしろ強烈な印象だった。これら100点近い作品には、人の欲望や戦争の際限ない愚かさと残虐さが徹底して描かれていた。痛烈な批判は、彼が最初の近代の画家と呼ばれる所以にちがいない。
何とも愛らしい図録表紙(着衣のマハも選べるがこちらにした)
スペイン王子フランシスコ・デ・パウラ・アントニオの肖像
当肖像画の王子はあまりにも魅力的で、悲しいほどなのです。
今年の秋は 雪国にも赤い冬
昨夜から雨が続く。例年ならば木枯らしも吹く頃だが妙に静かだ。
落ち葉の片付けが厄介なケヤキはまだ本格的な落葉をしてない。ある方からせっかくの干柿をカビさせてしまった、とも聞いた。
始まりは南天の赤い実、紅の椿が咲く頃に冬は終わる
無為に春を待つだけでなく
心に赤い灯をともして一日ずつの冬を過ごそう。
いただいたお菓子は上越高田の伝統菓子で、いつかどこかで食べたことがある夜光パンだ。しかし今日の品には別名が付いていたような気がする。明日になったら分かるかもしれない。
瑞泉寺の一期一会 樹下美術館もぽつんとした引力を
日中さして寒くない雨の日。上越市南本町瑞泉寺で「邦和会 茶会(第三回」があった。
このところ続けて茶会に伺っている。母が亡くなって間もなく三ヶ月、まだ部屋にいるような気がするが外出に少々安心を自覚するようになった。
瑞泉寺。なかば落葉した桜の陰で聖人像が冬を迎えようとしている。
薄茶席は点茶盤による立礼で、時雨にけむる庭が見える開放的なお席。濃茶席では八畳間で開かれたばかりの炉を囲んだ。
いずれも心こもりのお道具に接し、熱い茶に一期一会を胸深く吸い込んだ。
帰りはしょっちゅう通る国道8号線。直江津方面から来て黒井を過ぎる右側、遠くに白い小さな建物が見える。以前は木造だったように思われるが、ずっとある。
写真のさらに左には長い間、松が一本ぽつんとあった。松は切られて10年近くたったかな、やはりいつも目をやっていた。
松も家もぽつんとしたものにはある種引力がある。小さな樹下美術館もそのような力を有していたい。
北野美術館 栗の木美術館 リンゴ
昨日の婚礼後、紅葉の軽井沢で一泊した。本日は午前中に長野市の北野美術館を見て、午後小布施へ行った。
●初めて訪ねた長野市の北野美術館は北野建設・北野家父子二代のコレクションを展示する財団法人格の美術館。大きな展示スペースが五室ある本格館で、「秋を謳う」展を行っていた。川端龍子、川合玉堂、片岡球子ら日本画巨匠たちの大作が最初に待っていた。
洋画も充実していた。穏やかなユトリロ、マリー・ローランサンのホワイト、ルノワールの意外に薄いマチエールなどなど、とても惹かれた。江戸時代の風俗を描いたチャールズ・ワーグマンとはかつて「逝きし世の面影」の参考図で出会ったことを思いだした。
日本人の洋画では、藤島武二、小山敬三、岸田劉生はさすがだった。木村荘八の気分に癒され、糸園和三郎の「かたぐるまの父と子」に父親の孤独を感じた。
彫刻では池田カオルの少女を包む穏やかな空気、朝倉響子と佐藤忠良の帽子は魅力的だった。
長野県は日本有数の美術館県だ。当館は私立としてそのさきがけとなり、シーンをリードした大きな功績を有している。
紹介文の一節「私的なコレクションは公的なそれに比すればはるかに自由と柔軟性をもっている」は、小館ながら樹下美術館の日頃と通底していると感じた。
●小布施では町を散策後「栗の木美術館」に入った。心なごむ作品が展示され、桜井甘精堂本店の奥にあった。ここで寺田政明の三作品を見ることが出来て嬉しかった。氏の作品は小気味よく、少々疲れた心身は休まった。
作者は俳優寺田農さんの父で、樹下美術館の作家・倉石隆らとともに主体美術協会を創始されている。
小ぶりな美術館だったが、アプローチたる独特の庭は絶妙で、変化を漂わせながらしっとりとした空間を作っていた。驚いたことに入場無料だった。
●混雑する小布施の町で遅い昼食に美味しい雑穀カレーをいただいた。例によって妻だけビール(地ビール)を旨そうに飲んだ。おみやげのリンゴは味、見た目とも素晴らしかった。
手入れの良い広大なリンゴ畑は完熟のいい匂い。もいで食べたい衝動に駆られる。
小布施町は何故いつもこんなに人を集めるのだろう。
引き継がれる先人の文化?お金の使い方が上手?
農を生かし切る?高い地域個性と個人意識?
善光寺や周辺の温泉との行き交い?
秋晴れの秀麗 柏崎市のお茶 新潟市の驚くべき展覧会
二日続きの秋晴れの一日だった。週末の午後、柏崎市の木村茶道美術館へ寄って新潟市の會津八一記念館へ行った。柏崎市では最初に懐かしいヨットハーバーへも寄った。
同市は昔からヨットが盛んだ。ハーバーでは7割がた陸揚げされていたが、懐かしい「ミス日本海」号はまだポンツーン(係留のための共有通路・桟橋)に居た。大きかった同ヨットはその昔、ナホトカ市への友好航海やハワイへの遠征を行って有名だった。およそ4年間、当時皆さんにはレースなどでお世話になった。
お目当ての一つ木村茶道美術館は昭和62年春、茶道を始めるきっかけとなった所。ヨットを終えてからだったが、以来何度通ったか分からない。
初めての人もお菓子をいただき文化財級のお茶碗で抹茶が飲める。掛け軸、香合、棗(なつめ)、茶杓、風炉・窯、棚飾り、みな文句なしの文化財。私の茶碗は御本刷毛目(ごほんはけめ)、大振りで明るく、うっとりするような器だった。
妻は秋らしい趣の絵唐津の筒茶碗で、初めてというご一緒したお二人も備前や灰釉の名碗だった。
茶室のある松雲山荘の四季も道具類に負けずご馳走だ。なかでも間もなく錦となる紅葉はかってニュースステーションで中継されている。
ここでは未経験者でも気楽にお手前のもてなしを受け、御抹茶が楽しめるのでお勧めしたい。
松雲山荘:ドウダンツツジの刈り込み。 この数百メートルも真っ赤になる。
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茶室の棚飾りは竹籠。 古い唐物(からもの:中国の伝来品)
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本日のお目当て「北大路魯山人VS會津八一」はまれに見る充実の展覧会だった。サブタイトルは“傲岸不遜の芸術家”とあった。思い切ったキャッチ、しかし傲岸に秘められた限りない美意識と探求、ナイーブな精神は天からの贈り物だと思わずにはいられなかった。
単に贈り物と言っても、本人達は血のにじむ思いで制作と格闘したことだろう。しかしその結果が私たちへの贈り物(あるいはもてなし)ともなっているのだ。
二人の共通項は先ず時代と書、なにより強烈な個性(自我)ではないだろうか(巨躯とユーモアも)。両者の特異として魯山人は美食の具現と陶芸、八一は短歌と美術史でそれぞれ巨峰をなした。
お互いは同時代にも拘わらず、意識しあっても決して交わることは無かったという。つきつめた個性とはそのようなものかもしれない。
さて八一は新潟県の人であるが、魯山人と新潟県の関係も新鮮で興味深かった。その一つ貴人、良寛への熱中が示されていた。新潟県の文化人達へ良寛を所望する痛々しいばかりの手紙などに陶酔ぶりが伺われる。
糸魚川の歌人相馬御風や柏崎市のコレクター吉田正太郎との交流等々、同県人として誇りを禁じ得ない。
拙樹下美術館の人間として印象に残ったのは八一が揮毫し、齋藤三郎が形成・焼成した抹茶茶碗だった。蝋で書かれた力強い文字、染め付け(藍色)の色合い、寸法、、、。二人の天賦と努力が一点に注がれた夢のようなお茶碗だった。
會津八一の没後55年となる当館の今年度特別展。希な芸術家の篆刻、書画、手紙、器、看板、写真等々が二度と見られないであろう切実さと品格をもって心に迫った。本日は全てを見たとは言い難い日程だった。11月30日までなので願わくば何度も見たい。
同催事は新潟県民の誇りを確認させてくれる異例のものではないだろうか。是非沢山の方に見ていただきたいと思った。
懐かしいイタリア軒のラウンジで見たディスプレー
すっかり暮れてイタリア軒で食事をして帰った。夏来体調が良くなかった妻は快気のビール。運転の私は食べるだけ、美味しそうなお酒の色合いを鑑賞させてもらった。
何度か書き直しをしました。
高田、直江津 暮色
本日、親鸞聖人七百五十回忌記念茶会があった。宇喜世と浄興寺の二会場で行われたが、時間が迫って後者の会場のみ伺った。
濃茶、薄茶両席の待合で聖人等身影と恵信尼(えしんに)公御文の貴重に浴した。晩秋の茶会は賑わいと共に、随所に名残の風情が漂い心に沁みた。
濃茶は妻の知人がお点前をされた。濃茶に相応しい緊張が伝わり心こもった茶が美味しかった。宗泉先生、宗米先生、有り難うございました。
時間まで高田小町を見学
茶会 初めて通った新しい道 |
浄興寺の境内、シロダモらしい花。
穏やかな黄色に惹かれた。
夕刻から高田世界館で「煙突の見える場所」を見る予定。時間まで車を置いて寺町を歩いた。
山野で減りつつある照葉樹林は社寺林とも言われ寺などでまだ大切にされている。シロダモらしき樹もそうだが、高田寺町界隈では雪国には珍しい常緑広葉樹が見られるようだ。
いくつかの寺院を訪ねてみた。樹木も珍しかったが、ある境内で一面にシロバナホトトギスが咲いていた。自分など一株育てるのに苦労しているのに、こんなに群生するとは。今度はもっと明るい時間に歩いてみたいが、黙って境内に入ってもいいのだろうか。
映画は胸を打った。戦後、砂利道の東京下町、正義や権利という言葉が生々しく息をしていた時代の物語だ。美男美女が貧しさの中の真心を引き立たせ、あっという間に時間が過ぎた。
高峰秀子は劇中二回あくびをして、二回とも釣られた。森雅之にはまったく反応しなかった。高峰秀子は迫真だった(夜叉のごとき田中絹代もまた)。
映画館は滅多に入らない日頃、今日は高田世界館に来て良かった。
夜の直江津港、船舶の灯りは印象的だ。灯りの下でクルーたちはどんな時間を過ごしているのだろう、羨ましくもありいつ見ても楽しい。
お茶のおさらい いつか私も
樹下美術館隣接の茶室で妻の友人がお茶のおさらいをされた。お終いの頃に座って濃茶を頂いた。
滑らかに練られてとても美味しかった。
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- 明日からジョケラさんの展示会 高宮あけみ展のご来館有り難うございました。
- 別れ。
- カフェのノート、スケッチブックの絵、ブログ展その2。
- 講演会「良寛さんに学ぶ」が無事終了した。
- カフェのノート、スケッチブックの絵、ブログ展その1。
- 来たる11月7日からラッセル・ジョケラさんの展示会 晩秋の花 近隣のコハクチョウ
- 先週末の種々。
- 高田高等学校創立150周年の秋 いたくら桜園 近隣の秋。
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