明け暮れ 我が家 お出かけ
雪は降ってない
隣室から母の呼ぶ声がした。畳の部屋で大きな卓を前に母が座っている。
卓上に白い紙が置かれ、母は黙って筆を執っていた。
庭にに囲まれた部屋の戸は開け放たれて緑の光の中に母の影が浮かぶ。
何か用、と訊いたが返事はなかった。
黙っているなんてあり得ない、どうしたの変だよ、と不安にかられて私は言う。
問いは無視され母の姿がだんだんと薄くなっていく。
私は人を呼びに隣室へ飛び出したが、すぐに引き返した。
そこに人の姿はなく卓上に数珠が一つ置かれていた。
いたたまれずに庭に出ると曇り空が木々を見下ろしていた。
そう言えば父も妹も近しい者たちもみな急に消えた。
いずれも別離というより失踪ではないのか。
母もまた訳と行方を探さなければならない。
さて、以上は数日前の明け方に見た夢です。
7月3日に外出をした母。しかしこのところ反応が落ち、点滴一本で何も食べず、はー、と言っては目覚めてまた眠るようになりました。昨日、隣の部屋の窓を開けると少しだけ表が見えました。
「雪、降ってないの」
「大丈夫降ってない」
聞いた母が安心したようにまた目をつむりました。
佐賀県古枝村の南国から越後に一人来て、ある種よそ者として生きた65年。短い言葉に母の心情がにじんでいました。
幸せな若夫婦 渋柿浜の花火
昨夜は直江津祇園祭の花火大会。 花火大好きという妻と海へ見に行った。少しでも会場近くとて大潟区渋柿浜の漁港へ。
花火は正面に上がった。ぱーっと開いて随分経ってからドーンと聞こえる。車のエンジンを切り両窓を開けると気持ちのいい風が通る。ちょうど一時間の花火も良かったが、窓からお隣の車の若いご夫婦の声がよく聞こえて楽しかった。
ああダメダメダメ、間に合わないよ。押してから2,5秒でガシャとシャッターが切れるんだから。
シュルシュルと上がったら見当つけてシャッター押すの、遅い遅い。
画面見てたら遅くなるんだから、目でも花火を見ながら押すの、ああダメダメダメ。
ご主人はケータイの写真に不慣れらしい。小さなお子さんは眠ってしまったようだ。おうちでは何かと奥さんがリードされるのだろう、いい感じのご夫婦だった。
大好きと言っていたのに花火が上がって間もなく妻はすやすやと眠ってしまった。
糸魚川 ジオの静謐は大いなる魅力
昨日に続いて曇り空のまま気温も上がらない一日。涼しいうちに、ということで午後糸魚川へ行った。
目的地はフォッサマグナミュージアムと谷村美術館。フォッサマグナミュージアムは数回見ているが、世界ジオパーク認定後は初めて。谷村美術館も何度も訪ねていたが、数年前に閉鎖された。しかし幸運なことに再開されたと聞いて本当に嬉しかった。
最初に訪ねたのはフォッサマグナミュージアム。隕石からのスタートで、魅力的な化石、宝石、貴石、資源・地質資料、ナウマン博士の事、など興味尽きなかった。
展示スペースの全景 キラキラした巨大なアンモナイト 虹彩を放つ斜長岩(スペクトロライト) オパールの原石 ヒスイは涼しい |
重い鉄隕石、妻は片手で持てなかった くっきりした紋様は人気がある 小生の好きなラピスラズリ- 糸魚川一帯に分布する珊瑚化石 直角化石も糸魚川産
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2009年8月22日、ユネスコが関係する世界ジオパークネットワーク(GGN)の会議で糸魚川は洞爺湖有珠山、島原半島とともに世界認定された。
地質学的な世界遺産ともいうべき認定は貴重だ。恥ずかしながら私も糸魚川・青海一帯が好きで30年来、思いついては訪ねた。清々した石灰岩の山々、おびただしい珊瑚化石の露頭、多様な石ころの浜辺は見て触れて格別だった。
今日訪ねてあらためて印象的な事柄に出会った。
●糸魚川ヒスイの発見に関する不可解な経緯、なかでも相馬御風氏の謎めいた関わり。
●フォッサマグナを提唱したナウマン博士と森鴎外のドイツに於ける日本論争。
●ショップで化石や鉱物標本の販売が中止された。世界認定以後、資源保護の意識表明。
●認定以後、お客さんの数が違う印象(以前は自分一人のことも多かった→今日はかなり賑やか!)。
時間が無くなり谷村美術館は今度にした。それにしても再開は嬉しい。ジオパーク、御風邸、などとともに新潟県の西地域が文化でひき締まる印象を受ける。
糸魚川は他の二カ所のジオパークより格段にスケールが大きいと思う。一帯の自然は可能性に満ちている。こじんまりと音頭や看板から始まるのは仕方ない。今後何十年かかってもいい、着実に世界認定に恥じない質で充実発展することを切に期待したい。
何億年のジオの静謐、大いなる魅力、嬉しいことに博物館は撮影OKだった。
気持ちの良い雲 夕陽弁当 いつか佐渡へ
夕刻に向かってやや気温が下がって凌ぎやすくなった日。患者さんも母も落ち着いているのかな、という木曜午後は定期休診。いつものように田んぼを一回りして美術館へ行った。
空は晴れ上がり、綿雲や飛行機雲が浮かんでいる。
台風は新潟県上越地域にほとんど雨を降らさずに去った。連日の熱暑でアジサイはじめ庭の花々はぐったり。
みっちり二時間の水遣りをした。樹下美術館は庭も見ていただいているので手抜きは出来ない。
途中から加わった妻は草取りにかかる。庭の草取りは仏の手指をきれいにして差し上げる仕事と、殊勝なことを言っている。新潟日報の新聞小説「親鸞(五木寛之作」を読んでいてかなりその気だ。
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すると尾神山にも似た雲が |
本日も夕陽の浜でお弁当を食べた。今日は浅漬けのお新香と枝豆が付いた。この時間、見晴らしがいい四ツ屋浜は、いつも何組か家族やカップルが来られている。
少し離れた所で私たちは車窓を開けコンビニ弁当を広げる。暮れる沖の佐渡汽船を見ながら、いつか日帰りで佐渡へ行きましょう、と妻。
日帰りでも小木、深浦、宿根木は十分行ける。パソコンが落ち着かず、日をまたいでしまった。
集中のなでしこジャパン 男子は髪格好を気にしすぎ
なでしこジャパン、お目出度うございます。ワールドカップの世界一は本当に素晴らしい。
日本に女子サッカーが出来た当初、それは一種あわれを感じるほどのマイナー振りでした。
澤選手、何年たちましたか、ついにWC優勝と最優秀選手!このような事が可能なのですね。
比べたくはないのですが、男子。大抵のスポーツで男子はきめた髪が何かと気になるようで、試合中もよく髪を触っています。バレーボールもそうかも知れません、100%集中しているのでしょうか。
ああそれなのに、なでしこの選手たちは、髪をしっかり止めただ汗だくなのでした。そして身体の小ささがこれほど生きるとは、目からウロコでした。
帰途の飛行場のニュースを見ましたが、はじける美しさですね。
今日の自分は一歩も外へ出ず仕舞い。図録に載せたい作品が昨日新たに手に入って再度全体の組み直しでした。
豚飼い フォルテシモからピアニシモへ
去る5月10日の拙ノートに「フォルテシモな豚飼い」のことを書かせていただきました。著者は小生の一つ違いの弟です。このたび前著の続きになるのでしょう、ピアニシモな豚飼いのリーフレットが届きました。
無沙汰がちの拙弟ですが紙面をお借りしてご案内させて頂きました。
「ピアニシモな豚飼い」は来る8月6日に西田書店から発売されます。2009年の「フォルテシモな豚飼い」から丸2年が経っています。
あれ以後、人間の所以(ゆえん)はどうなったのでしょう。20年余の豚の放牧「コルティッホソーナイ牧場」と「風の宿」は果たして所以に叶ったのでしょうか。
3月11日、南三陸町の山中で執筆中の著者を大地震が襲いました。破壊と汚泥の中から著者の魂はさらなる所以を求めて最後(多分)の飛翔を試みようとしているかに見えます。
“緑あふれる日本にあっては、心に宿る魂の「私」が穏やかに満たされると所は、やはり人類が百九十九万年あった、意なき緑の静寂にあってしかないようである”と彼は述べます。
幼少から弟は走るのが速く私は遅い。彼が自転車で日本一周を試みる間私はバンドなどを行い、彼が反戦デモから帰ると、私は戦争は当事者が消耗し切れば終わると述べました。
“国破れて山河あり”。昭和29年、中学校入学式で校長が述べた言葉です。校長は大学の仏教美術の教授を兼任していました。幼弱な私たちを黒々とした視線でキリのように貫きながらその言葉は発せられました。私は何のことだかさっぱりでした。
それが50才を過ぎた頃から、自の精神の拠り所は緑なす山河しかない、と確信するようになりました。何かと異なる弟なのに似たようなことを思っていたとは、やはり同じ親の子だな、とつくづく思います。
「ピアニシモな豚飼い」、宜しければどうかご笑読ください。
赤い月 高田高校の山崎先生
良く晴れた一日、少しく風が吹いて、日中は家より外が楽な時間もあった。いよいよお年寄りの脱水症(発熱、食欲途絶)が始まった。今日は三件の往診先で点滴をした。いずれも急で夏は本当に油断が出来ない。
さて今夕の満月を楽しみにしていた。月の出を家の前の道路から見ることが出来た。出たばかりの月は驚くほど赤く、家並みの真上だったので大きく見えた。あまりの赤さに、お向かいの奥さんがあれは何ですかと仰ったほどだった。
ルナ・ロッサ(Luna Rossa) 赤い月はシャンソンにもある
ルナ・ロッサと言へば、テラ・ロッサも思い出す。双方ともイタリア語で、テラは土でロッサは赤。赤い土テラ・ロッサは地中海地方やブラジルに見られるぞ、と高校時代に山崎静雄先生の世界地理で教わった。
ロングさんとあだ名された先生は数学がメインだったが地理も教わった。アルゼンチンの首都ヴェノスアイレスはスペイン語で良い空気という意味なんだ、シュヴァルツ・ヴァルトはドイツ語で黒い森だとも習った。
先生が話をされるとそこへ行ってみたくなった。
一年生の時の担任でもあった先生。その年の後半、私の結核が分かった時に親身になって心配してくださった。背が高く山岳部の指導もされたと思う。
授業は常に熱心で思い出深い。
夏の夕刻、激しい気象
今日また暑さはさらに厳しい。仕事が終わる直前に晴れ間が変化して激しい夕立がきた。スタッフがゲリラ豪雨、と漏らした。
夕食を終えるころ雨に濡れた百日紅(さるすべり)が赤々と夕陽を照り返している。7時まで待って四ツ屋浜へ日没を見に行った。
雨上がりの海にあざやかな夕陽が沈んだ。道の水溜まりが赤く染まって遠くを佐渡汽船が通過して行く。
雨があがり、夕陽に染まる百日紅
赤い水溜まりの向こうを佐渡汽船が帰る
真っ黒な雲(乱層雲)の下に柱のような雨影
稲妻を写すのは難しい。
深まる夕闇の向こう直江津方面で稲妻が光り始めた。カメラを構えると今度は私たちの後ろが光った。振り向くと真っ黒な雲から大きな柱のような雲(雨影?)が海面に降りていて、そこにも稲妻。
雲はごろごろと言いながら閃光を放ち、こちらへ向かってきた。ここで雷に打たれたら申し開きができない、追われるように家に帰った。
再び雨が降ってきて夕刻の気象は激しく変化した。自然てすごいね、と妻、まったくその通りだと思う。
陶齋のざくろ紋壺 父の油絵 小生の絵油 再び夕陽を
以前のノートで柘榴アラカルトとして陶齋の壺を描いた父の油絵を載せたことがあった。その時、とても気に入っているので額装し直して架けたい、と書いた。
実行まで随分日が経ってしまったが、昨日大嶋画廊さんへ持参しその場で仕上げて頂いた。
モチーフになった陶齋のざくろの壺 (昭和28年頃)
陶齋40才の頃の作品。
額装し直した父の油絵(昭和30年頃)
50才の頃突然のように描いた。
部屋に架けるととても良かった。存在感のある丸み、陶器の肌あいとざくろの朱がなんとも良く出来ている。陶齋の壺への愛情が筆を取らせたにちがいない。一枚だけ残した絵には、好きだったマチスの爽快さまで漂うようで気に入っている。
一方私のは随分苦労して描いた記憶がある。父のに比べて分量も少なく如何にも面白みがない。
追加:今日の午後、上越地方は高田で34度にも達する暑さで、今年一番。大潟区で車が示した外気温は32度だったがそれ以上の暑さに感じた。
夕食後、再度妻と海へ行った。一昨日とちがって見応えのある夕焼けだった。
何かに感謝したくなるような時間だった。
四ツ屋浜の夕陽 コンビニ弁当 土底浜の小屋
また夕陽の海でお弁当を食べよう、という話をしていた。午後から雲がそれらしくなったので今日は行ってみることになった。
海の夕食は前回同様買ったお弁当。小生と美術館と三人の老親を抱える日頃、行事は一ときながら100%妻の骨休めだ。
車ですぐの四ツ屋浜の海沿いは高さがあって気持ちがいい。先日の夕暮れも何組かの人達が犬などを連れて三々五々海を眺めていた。
土底浜の小屋。近くに小さな船着き場、もう使われていない風に見えた。
向こうに直江津の火力発電所の灯りが見える。
しかしせっかくの日は、夕方に向かって雲が多くなり空は怪しくなった。それでも用事から帰った妻はしっかりお弁当を買ってきた。母の夕食を見終えて、夕焼けがきれいでなくても構わないということで出かけた。
陽は湿っぽい雲を少しばかり染め、最後に私たちを赤い目でじろりと睨んで沈んだ。開けた窓に潮騒と風が心地いい。私はオールフリーを飲み、妻はビールを一缶飲んだ。
食事を終えると、Uターンのためにかっての漁師さんの小屋まで下って行った。たぶんこの辺りは土底浜。絵みたいと妻、私には映画のように写った。
風景も食事もどことなく浮世離れの夕べ、400円もしないお弁当は900Kcalもあった。
お金も掛けず、しけた線香花火のような夕陽と、なにか絵か映画の様な風景を見て楽しい夕暮れピクニックだった。
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