齋藤三郎さんと我が家 1 灯り
するすると時は過ぎて間もなく3月、今年の開館が近づきました。旧年に増して樹下美術館が愛されますよう一同励みたいと思います。
ところで樹下美術館では倉石隆氏の絵画とともに齋藤三郎氏の陶芸作品を展示しています。今回は齋藤氏と我が家の思い出を書いてみます。思い出といっても私の小学生から高校時代くらいまでですが、お読み頂ければ有り難く思います。
齋藤三郎さんと我が家 1 灯り
昭和21年春、医師だった父は、母と4人の子どもを引き連れてかろうじて満州から引き揚げた。戦前、祖父の借金返済のために渡満し、再び無一文に戻っての帰国。実母のほか疎開で留まっていた何人かの父の兄弟も加わり、戻った実家は楽ではなかったようだ。翌冬の私たちのゴム長も母が工面した借金で買ったと聞いた。
まもなく、結核が得意だった父はわずかに残っていた田畑を売り払い、渋る銀行へ通ってレントゲンを買った。ようやく家に活気めいたものが漂いはじめたが、今度は診療の忙殺でトゲトゲしい緊張感が家を包んだ。父は険しく、母は硬かった。そんな我が家に突然のように明るさを引き連れて登場したのが齋藤三郎さんの器だった。
戦後まもなく齋藤氏は戦地満州から帰国し、兄・泰全和尚の寺がある新潟県高田市(現上越市)で作陶を始めた。昭和23年ころか、父はある若い結核患者さんの紹介で齋藤さんと出会ったらしい。そしてすぐ氏の作品に夢中になった。当初、小さかった自分にはよく分からなかったが、まもなく齋藤さんの作品が特別な意味を持っていることを知るようになった。
年に数回、窯出しのたびに父は汽車で高田へと向かった。そして夕刻、リュックサック一杯の作品を背負って帰って来た。皆の前で荷がほどかれると、新聞くずの中から皿、壺、湯飲みなどが次々と飛び出した。全ての器に絵付けが施されていて、花や文字の生き生きした文様は子ども心をも打つようになった。この時ばかりは、見たこともない笑顔が父に浮かび、母の声は華やいでいたのだ。
私たちでも頬ずりしたくなるような器の登場と両親の喜び。齋藤さんの作品は普段寒々としていた家に思いもよらぬ灯りをともすこととなった。
色絵色紙牡丹紋皿
恥ずかしながら続きます。
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