5月6日、富山市で令和の考案者とされる中西進先生にお目に掛かった。
昨日のノートで富山行きのことを書かせて頂いた。
実はその日の朝、思いもしなかった人と出遭っていたことも書いた。
思わせぶりな書き方に、どんな人だったの、と本日二三質問を頂いた。
お目にかかった人が貴重過ぎるのと、私が疲れていたこともあって昨夜書けなかった。
本日は書きたい。
出遭ったその人は、新元号「令和」の考案者とされる中西進さんだった。
その昔辛い時期を過ごした30才代半ばから10数年間、憑かれたように本を読んだ。
自然/生物/天体/人間/その歴史と進化、小説・短歌、宗教、西行、良寛、空海、遺伝/環境、哲学、文化人類学、精神/心理分析など色々だった。
ばらばらだが、良かった本はその出版社から次ぎを選ぶようなことが少なくなかった。
その中で特に親しめ、心和らぐのを覚えたのが中西進さんの本だった。
おびただしい著書から、わずか数冊だったが私に向かって差し出された手のような温かみを感じた。
自分にも与えられているはずの麗しい魂を、むげに死なせてはならない、、、。
ただ一点、書物からそんなエッセンスが残ったように振り返える。
ところで、このたび改元を控えた3月24日、長年漢詩だと思い込み、読み方が分からなかった陶齋の陶板の文字が万葉集だった。
それから一週間後の4月1日、新元号「令和」が発表され、出典がまた万葉集。
翌4月2日、令和の考案者として万葉集の権威でもある中西進先生の名前が上がった。
突然のように万葉集が現れ、懐かい名前が飛び出してきた。
そして昨日5月6日朝、その方がホテルで朝食を摂られていた。
絶対中西先生だと思った。
サインを貰おう、だが手帖も紙も無い。
矢も盾もたまらずレストランのスタッフの許へ行き、メモ用紙と台紙をお借りして先生の食事が終わるのを待った。
頃合いを見計らって吸い寄せられるように先生のもとへ行った。
幸い名刺があったのでおずおずと差し出した。
「中西先生でしょうか」
「はい」
「突然失礼致します。わたくしは新潟県で樹下美術館という小さな施設を営む杉田という者です」と言った。
先生は名刺をご覧になり、
「樹下美術館ですか、いい名前ですね」
「ありがとうございます。樹下が浮かんだ時、これ以上はないと思いました」
「そうでしょう」
「実は若い頃に辛い時期がありまして、先生のご本に救われました」
「どんな本でしょう」
「谷蟆考や雪月花などです」
「有り難う」
「こんな紙で大変失礼ですが、サインを頂けますでしょうか」、ボールペンとメモ用紙と台紙をお渡しした。
先生は小さな紙に少し書きにくそうにペンを走らせ、心配な私は先生の手許をじっと見ていた。
日付とお名前が無事書かれて終わった。
写真も宜しいでしょうか、とお尋ねするといいですよ、と仰った。
急いで妻を手招きして、先生と並んでシャッターを切って貰い、私も妻と先生を写した。
写真のあと深く頭を下げて、席に戻った。
数十年前、雲の上におられた方が急に降りてこられ、今ここにいらっしゃる。サインを頂き写真までご一緒した。
これは本当のことなのか、、、、今日はもう何もしなくていい、、、、富山に来て本当に良かった、、。
その日ずっとぼんやりとした夢心地が続いた。
帰って調べると、先生は富山市で「高志の国文学館」の館長をされておられ、このたび2回の講演会のために滞在されていた。
令和の考案者とみられる今日、去る4日の講演では、考案者は私によく似た人、とユーモアに包んで話をされたという。
元号の由来となった「梅花の宴」について、“自然は大きな哲学を持っており、それが日本の風土に仕組まれている”と梅花が示す意味を説明され、令和にうるわしい平和を重ねて行く時代を願う旨を話されたという。
お話の深い基調は先生ならでは、と今さらながら感心した。
過日手許にある先生のご本三冊を紹介させていただいた。
まだあるはずと、本日探しましたらもう一冊、「辞世のことば」(中央公論社 昭和61年12月20日初版 昭和62年2月20日第2刷)が見つかった。
左から「辞世のことば」、「古典と日本人」、「雪月花」、「谷蟆考(たにぐくこう)」。
「辞世のことば」の扉にあった絵図。
消しゴムで消えますので、変わった絵ですが私が描いたのでしょう。
納品書が挟まれていて、柿村書店とありました。
この本の巻末に「終 62.4.8」と自署している。
“もがり笛 いく夜もがらせ 花に遭はん”
何故か当時読んだ檀一雄の「火宅の人」にあった著者辞世とされる句が書かれている。
6日の朝、中西進先生には失礼なことをしたと思っています。
その先生は本当にお若く、かくしゃくとされておられました。
有り難うございました。
心から先生のご活躍とご健康をお祈り申し上げます。
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