庚申塔その14,三度目の柏崎に歴史と信仰の重量感、そして貞心尼の墓。
本日如何にも降りそうな空が我慢をしてくれた日曜日、再度柏崎を訪ねた。このたびは妻も一緒で11時に出発した。まず過日の笠島は多聞寺で庚申塔はじめ石仏を見て港へ降りた。
出がけの柿崎で、雲が退いていく米山を眺める。
今日はこの山の向こう側を訪ねる。
降りて行って岩に登ってみた。
高い所へ上がると童心に返り、とても楽しい。
笠島を後に柏崎市街へ。念願の貞心尼の墓碑がある常盤台(ときわだい)の洞雲寺(どううんじ)をはじめて訪ねた。
貞心尼は寛政10年(1798)に長岡藩士の娘として生まれ、23歳の時柏崎で仏門に入り、明治5年75歳でその生涯を閉じている。29歳で晩年の良寛を知り和歌を通じて細やかな師弟関係を続けた才人であり、容姿も非常に美しかったという。
この門をくぐって貞心尼の墓に上っていく。
冬真っ最中のため杉落ち葉が多い。
最も高い所に貞心尼(孝室貞心比丘尼:こうしつていしんぴくに)の墳墓。
墓は弟子の二人の尼僧、乾堂孝順比丘尼と謙外智譲比丘尼によって建立され、以下の辞世の歌が刻まれている。
「くるににてかえるに似たりおきつなみ立居は風の吹くにまかせて」
人生は沖の波のように行くも返すも似ている。私の身も立つ波と風に任せ、あるがままを受け入れよう、という主旨なのか。
貞心尼は長岡の少女時代に柏崎に連れてこられ、初めて海を見て感動、以来同地にあこがれを抱いていた。魚沼地方の医師と結婚するも離婚となった後、望み通り柏崎に移り住んだ。そこで二回の庵を編んだが、いずれも焼失の憂き目にあっている。
“くるににてかえるににたりおきつなみ、、、”
大好きだったであろう海を詠みこんだ歌には、勤しみと受容の人亡き師良寛の辞世とされる以下の句と似た観点を感じる。
「裏を見せ 表を見せて 散るもみじ」
良寛はもみじに貞心尼は波に生涯を重ね、二人とも自然と同一化している。最後まで固き師弟であろうとした心情が想像され、胸打たれる。
鐘撞き堂。触るように撞いてみたらぽーん、と柔らかい音がした。
洞雲寺を後にして、大洲に入り過日の大聖院で庚申塔群を拝観し、小久保1の西光寺へ。同寺は先日一人で訪ねた折、山門が印象的でまた周辺の様子が清々しく、門前の庚申塔と二十三夜塔が立派だったので案内した。
文字塔の中に青面金剛の石仏塔が入り、右端に二十三夜塔が建っている。
堂々たる揃い踏み。
色鮮やかな山門は昨年長崎を訪ねた時に見た寺の門を思い出させる。
西光寺を後に鵜川を渡ってすぐの御嶽山神社へ。
その後の西本町は香積寺であの猿が掘り出された庚申塔と柏崎勝長公の碑を拝観した。
柏崎市は至る所に社寺があり、予定の行程は忙しい。香積寺を辞して近くにあるはずの柳橋道祖神社を探したが、見つからず一息付こうとファミレスで遅い昼食をとった。柳橋は諦めて次の目的地比角(ひすみ)と日吉で目指す庚申塔を探した。来た事が無い場所のため、中々上手く行かない。
すると予定になかった所で庚申塔と出合った。
青面金剛(しょうめんこんごう)が左手にしているのはショケラか。
過日浦川原東俣で見た金剛は髪を掴んでいたが、この塔では胴を握っている。
荒ぶる仏、こわもての青面金剛はしばしば「女が嫌い」と伝えられている。
ショケラ(半裸の女性?)を鷲づかみしているのは姦通への戒めなのか。
男性本位の庚申待ちで、女性だけ乱暴に扱われているのは気の毒。
そんな空気の中で、女性たちが二十三夜の月待ちを行った気持も頷ける。
この金剛は邪鬼に乗っている(踏んづけている)。
その下に不見、不言、不聞の三猿。
浦川原と同じくどことなく可愛い邪鬼、猫みたいだ。
角形の文字塔にi刻まれていた「西野入村 石工(いしく) 善八」の記銘。
善八(ぜんぱち?)さんとはどんな人だったのだろう
こちらには比角村講中と彫られている。
※講中:庚申待ちごとに決まって集まる地域の仲間。
現在柏崎比角は街中だが、塔には村とある。
村とはいえこれだけの石塔を残している。
そこにどんな時が流れていたのだろう。
同社にあった石祠(せきし)は窓?がハート型になっている。
ほかの神社でこの形が逆さになっている石祠を見た。
若い人達が見れば喜びそうだ。
この形は古来社寺に於いて猪目(いのめ)と称され、魔除けの働きを附されているらしい。
イノシシの眼のことらしいが単眼を形容したものか、双眼を捉えたのか分からない。
比角、日吉で目指す護摩堂や地蔵堂が見つからず、時間を浪費した。8号線から252号線に入り南下して安田方面へ向かった。出発してすでに6時間近く経ち夕闇が迫ってきた。
探していた安田明神は無かったが、鳥越という場所で二基の庚申塔に出合う。
暮れる道をさまよう私たちを待っていたかのよな庚申塔。
右の屋根を冠したような石塔は珍しいかも知れない。
鳥越のあと、山沿いに帰路を取ると立派な寺院に出合った。如何にも寄って行け、という風情の慶福寺だった。
階段を上ると山門前に苔むす庚申塔。これも予定に無かったので嬉しい。
立派な本堂に火頭窓が三つ、朗らかに迎えてくれた。
杉木立の上に細い月が昇っていた。
帰路を急がなければならない、鯨波へのバイパス?を走った。真っ直ぐだと思っていたが山中をかなり曲がりくねる。鵜川に出たところで、左・佐水、と記されている。暮れていたが佐水の名が良かったので左折した。
右岸(西)に見えていた米山に代わって遠くに尾神岳が見えてくる。見なれた山容の裏手を走り旅情がつのる。ひなびた旅館でもあればいいのに、と妻が言うが夢のような話である。
家に帰るとお腹が空いていて、妻は豚汁とお茶漬けを用意した。
わずか4,50キロ先なのだが、とても遠い所へ行ったような気がした。
三回に亘り、探訪したのは柏崎市の一部をほんのちょっぴり。
だが同地は随所に社寺があり、人と信仰の距離が大変近い印象を受けた。歴史が古く地域に重量感と物語を、また社寺の宗派、系統も多彩で人の寛容さを思った。
周辺に魚沼と似た空気を感じ、市街地は都会的でますます興味深い。よくスタッフさんやボランティアさんが樹下美術館を訪ねて下さるドナルド・キーンセンターは勿論、まだまだ多数あるらしい庚申塔、二十三夜塔、火頭窓、貴重な史跡などさらに訪ねてみたい。
また帰路に垣間見た整備された広大な湿地の自然にも惹かれた。
随分長々となり申し分けありません。
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