「冬の旅」と父。
寒さと風は続き、何年ぶりかで冬らしい冬になっている。
雪道の面倒を考えて在宅回診を減らしたが、本日はイン
フルエンザと狭心症の急な往診が加わり、四カ所を回っ
た。
本日の道。厳しいがこのような風景は嫌いではない。
車から降りて撮った。
さて先日、停電のことで父が登場した。
冬の父の思い出はとにかく大変、というイメージしか残っ
ていない。
昭和30年代半ばまでの往診は自転車からスクーターに
変わっても雪道は歩くしかなかった。
夜中に電話があると、しばらくして母が重い扉をギーと開
け、父が寝ている二階へと階段を上ってくる。
「あなた、、、、、ムニャムニャ、、」と母の声がする。
「うん」と低く父が答え、時に舌打ちが聞こえた。
父は大抵すぐには起きず、しばらく時間を置いた後、決心
したようにトン、、トン、、とゆっくり階段を降りていく。
不安な気持ちで耳を澄ませている私たちはまた眠った。
翌日母は前日の往診について、5キロ先の農家まで歩き、
途中雪の田んぼに嵌まってしまい、ずぶ濡れになって帰っ
て来たなどと話すことがあった。
苦労が多かった父だが、たまに見せる笑顔はこよなく甘く、
後年、母を悩ませた女性問題があったことを知った時は、
さして驚かなかった。
そんな父がある日突然ピアノに譜面を置き、歌うようにな
った。
鍵盤の中音部に数本の指を置き、悲し気な音を鳴らして歌
った。
それが何の曲なのか分からなかったが、シューベルトの「冬
の旅」だと後で姉から聞いた。
父が歌ったのは全24曲のうち2曲半くらいか、伸びのあ
る良い声だった。
私の小学校高学年~中学生の頃ではなかったか、すでに
漠然としてしまった。
最終曲「Der Leiermann(ライヤーマン、辻音楽師)。
旅の最後に村角で犬に吠えたてられながらオンボロ楽器を
凍える手で奏でている老楽師と出合う。
誰も相手にしない彼に“一緒に旅をさせてほしい、そして貴
方の伴奏で私の歌を歌わせてくれないか”と歌う。
音楽師は死の象徴なのだ。
伴奏のボローン、ボローンと単調に響くピアノと、メロディー
の長い休止が脳裡に残っている。
もう一曲は20番「Der Wegweiserm、道しるべ」だった。
旅人はあえて道しるべに示されていない道を歩き始める。
両曲のテンポは異なるものの曲調はよく似ている。
悲しい調子の歌をつかえ、つかえ弾いて歌っていた父。
ある日、私は父の後ろに座ってずっと聴いたことがある。
ピアノが上手くなっていて、声を響かせ、感情込めて二曲を
歌った。あまりにしばしば聴いたのでメロディなどはすっか
り覚えてしまい、弟と真似して歌った。
何十年も経って、ある人が、お宅へ伺った時、貴方のお父さ
んがピアノを弾いて冬の旅を歌ったのを聴いたことがあると
話してくれた。
父がなぜ冬の旅を歌ったかは謎めいているが、思い当たるふ
しが無いわけではない。
冬の旅の最初の曲「Gute Nadht(おやすみ)」。
父は当初これも練習していたようにも思うが、はっきりしない。
主人公は恋人の家を去る時、戸口におやすみと書いて失意
の旅に出て、最後に辻音楽師と出合う。
さて私たちの心のどこかにこれらの歌に同一化できる感情があ
るのではないだろうか。
悲しいが、それによって他者に共感し、自らも生きることをを促
されているように思われる。
ヴィルヘルム・ミューラーの詩に感動したシューベルトの作曲だ
が、互いに会うことが無かったという。二人は夭折の点で共通し
ている。
二つの動画ともディートリヒ・フィッシャー=ディースカウの歌。
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