倉石隆の朱色 高価なバーミリオン。

2016年2月19日(金曜日)

「“鮮やかなバーミリオンやブルーは高いので
買わないのでしょう”、と夫に冗談で言ったこと
があります」。
かって倉石隆夫人から聞いたお話です。

そのバーミリオン(朱色)は最も高価とされれる
絵の具の色です。
例えば一本500円が平均の油絵具チューブのシ
リーズがあったとすると、バーミリオンは3500~
4000円なのです。

高価なのは顔料の主成分である硫化水銀が貴
重なためです。
そこで後年バーミリオンhue(ヒュー)と称する安
価な合成色が作られ、一方で普及することにな
りました。

朱色
バーミリオンの見本色

だが本物のバーミリオンは非常に鮮やかで魅力的
だといいます。
水銀をふくむためチューブは他にない重みまである
そうです。
色か価格か、画家たちにとってバーミリオンは一種
悩ましい絵の具だったということです。

さて戦争で東京から郷里高田に疎開した倉石氏は、
窮乏のまま1950年に再上京を果たしました。
当初の作品には暗調のモノクロームがよく見られます。

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「北の人」 1953年 27,0×21,8㎝

 

26●
「詩人」 1964年  89,9×73,0㎝

冒頭の夫人の言葉はそんな時代の会話だったのでしょう。
しかし時を経て鮮やかな朱系の絵が登場するようになり
ました。

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「室内の裸婦」 1973年 162,1×130、5㎝の
大作。多くのバーミリオンが使われたことでしょう。
冒頭の夫人の一言で発起したとも思われませんが、生活
に一定の余裕が生まれたことも想像されます。

 

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「鳩」 1984年 31,8×40,9㎝

いずれにしてもあざやかな朱色は雪国出身者の
倉石隆にとって憧れの色だったのかもしれません。

ここに氏による一枚の作品があります。

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「朱色のチューブ」 制作年不詳 45,5×37,9㎝
WNのマークから英国の名メーカー、ウインザー&ニュー
トン社のチューブで、貴重なバーミリオンのようです。

まるで恋人を描く様に丁寧に描かれ、倉石氏の朱色
への深い愛着がにじみます。

3月15日の開館が近づきました。
今年の倉石隆のテーマは「倉石隆の朱色」です。
小さな樹下美術館のわずか5点ほどの展示です
が、どうかご覧下さい。

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