梅雨空に葉文月白瓷香盒の貴重。
今春(株)有沢製作所のお茶室で命の電話チャリティー茶会の席主を務めさせて頂いた。
有澤会長や宗香先生のご支援で何とか小間の一日を務めた。
その後しばらくして先生から香盒(こうごう:茶道でお香をいれる器)を頂戴した。
器を入れる箱の表 葉文月白瓷香盒(はもん げっぱくじ こうごう)
貴重なことに香盒は齋藤三郎さんの作品だった。
そして月白瓷とは、年代は。
箱の裏書き.。高陽 齋三 造 とあり、泥裏珠光と斎の印がある。
戦前の署名で齋三郎や橡三郎はあるが齋三は初めて見た。
高陽は氏の窯の号の一つで高田城(高陽城)から採られている。
「泥裏珠光」はご承知の通り會津八一から贈られた号です。
※1:後述しますが、実は当香盒は昭和24年作で、一方泥裏珠光が陶齋に贈られたのは昭和27年です。
箱と中身の製作年代が合いませんが、箱は後になって持ち主の所望で造られた可能性があります。
高田の初期の陶齋作品には箱が付かなかったのが普通だったようです。
ちなみに父が購入した作品のどれ一つにも箱が無く、ただ新聞紙にくるまれて来て、そのまま歳月が経っていました。
ちなみに箱は、樹下美術館建設を機に齋藤尚明氏(二代陶齋)に作って頂きました。
※2:作品とともに、作者自身が用意し作品銘が書かれ署名されて残っている箱は共箱(ともばこ)と呼ばれています。
さて月白とは極めて淡い青白色のこと(加藤唐九郎著 原色陶器大辞典 淡光社)とある。そのような色彩の白瓷(白磁)の呼び名も初めて知った。
器の全体。わずかな青みを帯び葉の模様がかすかに浮き出た上品な作行。
(高さ×幅:3,2×5,8㎝)
最後の興味は年代だが、これに関して驚いたことに底に「齋」の彫り署名とともに「初窯」の記入があった。
「初窯]「齋」が一緒に記されている器は初見で、これまでもやもやしていた霧が一気に晴れた気がした。
というのは同様の署名の作品が樹下美術館に2点あり、非常に良い作品にも拘わらず年代が全く分からず困惑していた。
さて初窯は諸資料によれば昭和24年とされている。
この度の署名の書体は見慣れた齋とは部首の冠部分が異なり、正しく「齋」が書かれている。
恥ずかしい事だが、当初この書体は晩年のものではないか、と漠然と考えていた。
それが美術館を始めて以後、戦前の作品と出会うようになった。
その結果、年代はむしろ高田時代の極めて早い時期、もしかしたら初窯以前かもしれない、などと考えるようになった。
そのことを確かめるため新潟県立近代美術館に収蔵品閲覧願いを出して、
昭和18年作とされる名品「呉須掻落草文瓶(ごすかきおとしくさもんびん」を観に行った。
当日、瓶の底に施された今回のものとよく似た彫り署名を見て、自分の考えのかなりの部分が本当らしい、と実感した。
そしてこのたび同様の署名に燦然と「初窯」の併記を見た。
これらからこのような署名のある作品は「高田の極く早い時期の可能性」→「昭和24年の初窯も」と、
時代に具体性が付いたことになった。
何事も愛する対象の誕生日は知りたい。
頂いた香盒で年号を含め時期の見当が付いたことは非常に嬉しく、大きな安堵だった。
このことで制作中の図録への作品追加とレイアウト、ナンバリング、作品一覧などを一部変えなければならない。
これまで当館の図録完成予定を述べては延ばすことを繰り返してきた。
この繰り返しはすでに罪であろうし、もう言うのを止めたい。
もしかしたら図録は「葉文月白瓷香盒」との出会いを待っていたのかもしれない、という思いもよぎる。
※3:上記の署名「齋」は釘などを使った彫り署名です。一方樹下美術館に初窯と記された作品がほかに4点あり、いずれも呉須による素早い筆書きで冠部分が異なります。
月白瓷香盒の最大の驚きは彫り署名「齋」と「初窯」との出会いでした。それはある意味重要な化石の発見、ミッシングリングの連結ともいうべきインパクトがありました。
※4:初窯とは築いた窯の第一回目の焼成のことです。ですから同じ窯では一回分しか初窯作品はありません。齋藤三郎は昭和24年と昭和50年の二度窯を築いていますので、二つの初窯作品が存在することになります。ちなみに当館に二度目の初窯作品が2点あり、初回とは署名に変化が見られ、年号も併記されていました。(7月20日、追加いたしました)
「月白」が出ていた加藤唐九郎の原色陶器大辞典。1037ページもある。
宗香先生、本当に貴重なお品を有り難うございました。
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