西国の人 1 ポルトガルのKさん

2010年10月6日(水曜日)

 先日、京都のある医院から一通の封書が届いた。差出された先生に面識はなかった。手紙は小生が書いた紹介状を持参した患者さんが来院されたと、知らせていた。簡潔のうちに丁寧さがにじむ書面だった。

 
 三ヶ月前、私は一通の紹介状を書いた。当地を離れて京都へ移るというKさんの為だった。60代のKさんはお元気で少し血圧が高いだけだった。
「主治医殿」、宛先がこれだけの紹介状。不案内な遠くへの転地では、具体的な紹介先の代わりに主治医殿とだけ書くことがある。Kさんは京都へ行ったらご自分で医院を探すと仰った。
 あれからしばらく経っている。どうされただろう、と心配していたところへ今回の知らせだった。

 背が高く眼鏡に笑顔が似合うKさんを初めて診たのは2年近く前だった。顔立ちは私たちと同じ日本人、なのに言葉が片言だった。それでお国を尋ねた。
「ポルトガルだよ」、思いつけも無い国名が返った。語尾の「よ」が跳ね上がって欧米人のイントネーションだ。
「おじいさん達がポルトガルへ移民したのですか」
「そうだよ」
「もしかしたら貴方のおじいさんは広島県の人ですか」
「そうだよ」
人なつこい目をさらに細めてKさんは答えた。
 広島県のことは当てずっぽうだったが、もしやと思って聞いてみた。以前にこれと似たことがあったからだ。

 Kさんと合う少し前、新潟市から上越へ、樹下美術館を訪ねてこられた青年とお会いしたことがあった。その人のご出身は広島県だった。
ー続けてみますー

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